国際学会におけるリウマチ性疾患調査・研究発表
アメリカリウマチ学会(ACR2012) 報告書

 

氏名

所属

平田 信太郎

産業医科大学病院 講師

京都府立医科大学大学院医学研究科 免疫内科学 大学院生

宮部 千恵

東京医科歯科大学 膠原病・リウマチ内科 特別研究学生

NTT西日本大阪病院看護師 
神戸大学大学院保健学研究科博士課程1年生
(登録リウマチケア看護師)

※助成要綱を一部改正して登録リウマチケア看護師を助成対象することにより、登録リウマチケア看護師のモチベーションを高め、活発な活動を期待することとした。


平田 信太郎
   産業医科大学病院  講師

 2012年11月9日から14日まで、米国ワシントンDCのWalter E Washington Convention Centerで開催されました第89回アメリカリウマチ学会(ACR2012)に出席し、私の研究成果 ”A Multi-Biomarker Disease Activity (MBDA) Score Reflects Clinical Disease Activity and Tracks Responses in Patients with Rheumatoid Arthritis Treated with Either Adalimumab, Etanercept, and Infliximab”を口演発表致しましたのでご報告申し上げます。
  この研究は、関節リウマチ(RA)の病態形成に関与する事が知られている12の血清蛋白の濃度を測定し、これらの値をアルゴリズムに代入して得られる1-100の整数値で表される疾患活動性スコア(Multi-Biomarker Disease Activity; MBDA score)に関するものであります。当科においてTNF阻害療法(adalimumab, etanercept, infliximab)を導入し1年間継続できたRA 147例において、TNF阻害療法導入時、および、導入後24、 52週の血清を用いてMBDA scoreを算出し、現在RAの診療に広く用いられている臨床的疾患活動性スコア(DAS28-ESR, DAS28-CRP、SDAI、CDAI)との関係、および、TNF阻害療法を示す各疾患活動性の経時的推移、EULAR反応性を上記3製剤の全体および製剤毎に解析しました。さらに、MBDA scoreとvan der Heijde’s modified total Sharp scoreによる画像的関節破壊評価との関係について検討しました。その結果、MBDA scoreは従来の臨床的疾患活動性スコアと有意に相関し、治療効果を良好に反映しうること、上記TNF阻害薬3製剤間での挙動は同様であること、さらにMBDA scoreは、従来の臨床的疾患活動性スコアと比較し、より正確に関節破壊を予測しうる事を示し、従来法では得る事のできなかった分子生物学的側面を反映する新たな客観的指標としてMBDA scoreがTNF阻害療法施行中のRA治療管理の上で有用であると結論づけました。
  本発表は11月14日(水曜日) 11:00-12:30 のセッション ACR Concurrent Abstract Sessions “Rheumatoid Arthritis - Clinical Aspects VII: Prediction of outcome in rheumatoid Arthritis”の演題として発表致しました。
  このたびの発表および助成につきまして御厚情いただきました日本リウマチ財団髙久史磨代表理事をはじめ関係諸氏、ならびに、本発表に御協力頂きました産業医科大学第1内科学講座 田中良哉教授をはじめ諸氏に心より深謝申し上げます。

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藤井 渉   京都府立医科大学大学院医学研究科 免疫内科学 大学院生

  2012年11月9日から14日にアメリカ合衆国首都ワシントンD.C.で開催されましたアメリカリウマチ学会(ACR2012)に参加して参りました。
  学会には世界中から1万人以上のrheumatologistが集まり、シンポジウムやディベートのほか口演発表や2500題以上のポスター発表があり、会場は非常に多くの参加者の熱気で溢れていました。
  関節リウマチの話題としては、新機序の低分子化合物であるトファシチニブが2012年10月にFDAに承認され、安全性などの報告がありました。トファシチニブはJanus kinase (JAK)シグナル経路を調節することで下流のインターロイキン2カスケードを阻害し、自己免疫反応を抑えるという機序の薬剤です。既存の生物学的製剤に比べ副作用の点で特に変わりはないとのことでしたが、肝障害のほか重症感染症や悪性腫瘍などの発症例が報告されており、今後の経過を注視していく必要があります。また経口薬であり患者様にとっては服用し易く感じる薬剤になるかもしれませんが、費用面や安全面に関して他の注射剤と同様に投与時に十分説明をする必要があると考えられます。
  また関節リウマチ発症の機序として体内の常在菌(Microbiome)の関与が考えられており、歯周病や肺での免疫異常が関節炎に先行するのではないかという研究や、実際に喀痰中のACPAなどの自己抗体が関節予後によく相関する、という興味深い発表がありました。
  また2011年にFDAがANCA関連血管炎に対する抗CD20モノクローナル抗体リツキシマブの使用をステロイド剤との併用において承認したことを受け、従来から使われているシクロホスファミドとどちらを使用していくべきかについて公開のディベートが行われました。個々の症例について会場の聴衆が治療方針を選択のうえ投票し、その結果を踏まえてその分野の第一人者のパネリストがコメントするという興味深い企画でした。リツキシマブはシクロホスファミドの代替となり得ることが初めて証明された薬剤であり、特に再燃例や、不妊などのシクロホスファミドの副作用が懸念される症例では優位性があるかもしれないが、まだ使用経験が浅いため豊富なエビデンスがあるシクロホスファミドが優先される場合もあり、また広範な肺胞出血や急性腎不全など特に重症例ではこの2剤にこだわらず早期に血漿交換を実施すべき、というように建設的な議論でした。日本では承認されるかどうかまだわかりませんが、抗リウマチ薬として既に広く使用されている欧米と比べ日本では膠原病領域での使用経験がありませんので、もし承認されても欧米や血液内科領域での使用経験も踏まえて特に注意して使用していく必要があると考えられます。
 自分の発表としては、Myeloid-derived suppressor cellsという骨髄球系の免疫抑制細胞が自己免疫性関節炎マウスモデルで関節炎を改善させるという研究内容をポスター発表致しました。質疑応答の時間は世界中の研究者と直接議論できる貴重な機会であり、同様の研究を行っているグループも複数ありかなり鋭い質問も受け、刺激を受けるとともに世界の中で研究していることを実感し、さらに研究を進めていく大きな意欲が湧きました。
  今回は日本リウマチ財団から国際学会におけるリウマチ性疾患調査・研究発表助成を頂き国際学会へ参加することができ、大変貴重な経験を積むことができました。この場を借りて御礼申し上げます。この経験を活かしさらに研究を発展させ、患者様に一日も早く研究成果を届けられるよう邁進していきたいと思います。

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宮部 千恵   東京医科歯科大学 膠原病・リウマチ内科 特別研究学生

 このたび、国際学会におけるリウマチ性疾患調査・研究発表助成を賜り、2012年11月 9曰-14日に米国ワシン卜ンD.C.で開催されましたAnnual Meeting of American College of Rheumatology に参加させていただきました。
  今回私は、11月 10 曰の Vasculitis: Pathogenesis のセッションにて、“Am80, a Retinoic Acid Receptor Agonist, Ameliorates Murine Vasculitisthrough the Suppression of Neutrophil Migration and Activation” というタイトルでOral presentation を行いました。
  最近まで、血管炎の最適な動物モデルがあまりなかったため、血管炎症候群に関して十分な病態解明、治療法の検討が進めにくい現状がありました。今回私たちは、CAWS(Candida albicans water-soluble fraction)の投与によりマウスの冠動脈に血管炎を惹起するモデルを用いて、合成レチノイドであるAm80 の作用を検討した研究結果を発表しました。 Am80 は CAWS 血管炎モデルにおいて強い血管炎抑制効果を呈し、その作用機序として好中球の細胞遊走、活性酸素産生、エラスターゼ産生を抑制し、血管内皮細胞においては炎症性サイトカイン産生を抑制することを見出しました。
  口頭発表後にはフロアより質問をいただき、有意義な discussion が行えました。
  また、口頭発表後にもハーバード大学の研究者と研究内容につき大変貴重なdiscussion をすることができました。今回、自分にとっては初めての海外での国際学会での口頭発表で、英語に若干の不安もありましたが、当初の予想より特に医療・研究分野の話については問題なく意思疎通が行えました。医療制度は国によって全く異なりますが、海外の先生方も疾患の子防、治療という共通の目標に向かって自分と同じように試行錯誤していると感じ、刺激を受けました。
  今回ACR2012に参加させていただき、前記のように自分の研究成果の発表、海外の研究者との情報交換により大変有意義な経験をさせていただきました。これを励みに、今後も血管炎を中心とするリウマチ性疾患の研究に邁進したいと考えております。
  末筆になりましたが、このような機会を与えていただいた日本リウマチ財団選考委員の先生方、推薦者である宮坂信之先生、事務局の方々にこの場をお借りして深く御礼申し上げます。

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房間 美恵
   NTT西日本大阪病院看護師
            神戸大学大学院保健学研究科博士課程1年生
            登録リウマチケア看護師

 今回、登録リウマチケア看護師として初めて日本リウマチ財団の「国際学会におけるリウマチ性疾患調査・研究発表に対する助成」をいただき、2012年11月9日から15日までワシントンで開催されたアメリカリウマチ学会(ACR/ARHP)に参加させていただきました。
  平均気温が5℃という寒い気候の中、世界中から医師や看護師、理学療法士などリウマチ膠原病の診療に関わる医療従事者が集まり基礎研究や臨床研究など様々な発表が行なわれました。私は、生物学的製剤治療を行った関節リウマチ(RA)患者さんを、患者全般改善度(patient global assessment: PGA)が寛解となった群とならなかった群にわけ、QOLおよび患者満足度の改善に違いがあるかをAIMS-2を用いて評価を行いその結果を発表させていただきました。PGA寛解群は非寛解群と比較して「身体機能面」、「症状面」、「職業面」は有意に改善していましたが「社会生活面」には有意な改善は認められませんでした。また満足度については治療開始前から「家事」や「仕事」に対する満足感を持つことが治療後のPGA寛解達成に重要であることがわかりました。これらの結果から、RA診療に関わる医療従事者は、患者さんの周囲の人々に対しても疾患への理解を促すこと、家事や仕事に支障をきたす前に治療を開始する重要性を説明すること、適切な治療目標を設定し患者さんが社会に積極的に参加できるよう支援を行うことが重要であることがわかりました。
  海外からの発表では、関節リウマチや線維筋痛症などの患者さんの疾患活動性の評価だけでなく、心理面や職業面などQOLに目を向けた発表が多く見られました。中でも私が興味深く思いました発表は、TNF製剤治療を行って疾患活動性が改善した患者さんを対象に看護師がケアを行なう看護師主導のクリニックとリウマチ医主導のクリニックに分けて比較したスウェーデンからの研究でした。6ヶ月の観察期間で、疾患活動性や患者全般改善度、患者による痛みの評価、HAQなど全ての項目で医師主導のクリニックと同等の改善結果が得られていました。患者さん一人一人に合わせたケアを行なうこのような看護師主導の医療は、EULARから出たRAのマネージメントにおける看護師の役割についてのリコメンデーションを実施する上で参考となる研究であると思いました。
  リウマチ診療の現場で働く看護師は患者さんの訴えに真摯に耳を傾け、また研究会や学会で他施設の医療従事者と情報交換を行い少しでもより良いケアを行いたいと考えております。QOLの改善という共通の目標を持ち、医師や看護師以外のコメディカルとも協力しながら、治療計画の立案への参加、疾患や薬剤に対する理解の促進、社会参加への支援などを行うことが、生物学的製剤時代のRA患者さんのケアにおいて重要であると考えます。今回の学会での経験を踏まえ、どのようにすれば個々の患者さんに最適な支援ができるかを日々考えながら、また、RA患者さんのQOLの向上につながる情報を日本から世界に発信できればとの夢を持ちながら臨床と研究を続けたいと思います。
  最後に、登録リウマチケア看護師の制度を確立していただき、またこの度、国際学会にてリウマチケアにおける研究発表を行い海外の医療従事者と交流する機会をもつことをご支援下さるという道を開いて下さった日本リウマチ財団の先生方に対して、そしてご協力くださった患者さんに対して心より深謝申し上げます。

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