国際学会におけるリウマチ性疾患調査・研究発表
アメリカリウマチ学会(ACR2013) 報告書

 

氏名

所属

小林 志緒

京都大学大学院 医学研究科 次世代免疫制御を目指す創薬医学融合拠点 研究員

京都府立医科大学附属病院 免疫内科学教室 大学院生

日和 良介

京都大学大学院 医学研究科 内科学講座 臨床免疫学 大学院生


 
小林 志緒    京都大学大学院 医学研究科
             
次世代免疫制御を目指す創薬医学融合拠点 研究員

 2013年10月27日より4日間の日程でアメリカサンディエゴで開催されたアメリカリウマチ学会(ACR 2013)に参加し、「CXCL13-Producing CD4 T-cells in Rheumatoid Synovitis are a Distinct Subset」というテーマでポスター発表させて頂きました。

 関節リウマチ(RA)の成因には多くの細胞の関与が示唆されおり、T細胞の関与についても炎症滑膜への浸潤や抗CTLA抗体治療効果などより明らかになりつつあります。動物実験の結果ではT細胞の中でもTh1タイプやTh17タイプのT細胞が主に病態悪化に寄与しているとされていますが、実際のヒトRAにおいては動物レベルでの結果と異なる結果も多く見受けられ、RAでどのタイプのT細胞がどのように病態に関与しているのかは未だ疑問な点が多く存在します。我々は実際のRA患者さんの滑膜より細胞を取り出し、ヒトの炎症局所でどういったT細胞が存在するのかを解析する事から始めました。

 解析の結果、関与が示唆されているTh1タイプの細胞もRA滑膜に存在しましたが、CXCL13というケモカインの一種を産生する特徴的なT細胞が存在する事を確認しました。このCXCL13産生T細胞はTh1、Th17タイプのT細胞の集団とは異なったT細胞集団である事も判明しました。更にCXCL13を産生する細胞の1つとして知られている濾胞性T細胞(Tfh細胞)との比較をTfh細胞が多く存在する扁桃腺を用い行いましたが、表面分子の発現様式などよりTfh細胞とも異なる事が示され、このRA関節に存在するCXCL13産生T細胞が新たなT細胞分画である事が示唆されました。

 活動性RA関節局所は炎症状態にあり炎症性サイトカインが豊富に存在する事より、次に炎症環境がCXCL13産生T細胞にどのように寄与しているかを調べました。すると、炎症性サイトカインの存在によりCXCL13産生T細胞からのCXCL13産生の維持が認められました。T細胞からのCXCL13産生割合が疾患活動性と相関した事より、CXCL13を産生していない低活動性のRA関節 T細胞に刺激を加え再燃状態を模倣したところ、刺激によってCXCL13が速やかにT細胞より産生され、炎症性サイトカインの存在によりこの産生が維持される事がわかりました。これらの実験より炎症状態がT細胞からのCXCL13産生に大きく関与している事が判明しました。

 CXCL13はT細胞やB細胞を呼び寄せ抗体産生の場を作る事で知られるケモカインの為、我々の実験結果より、CXCL13産生T細胞が炎症に応じてT細胞やB細胞を呼び寄せ抗原抗体反応の場を作り出し、炎症の持続に一役かっているのではないかと推測しています。

 会場では沢山の方にブースに来て頂き、多くの方に興味を持って頂く事が出来ました。この細胞が新しいタイプのT細胞であるなら他にマーカーとなる分子はあるのか、炎症の持続に関与する直接の実験結果は得られているのか、といった質問を多く頂きました。その場で盛んな討論を行い今後の研究へ多くの参考・ご意見を頂く事も出来ました。 また、我々の研究発表の他にCXCL13に関する発表が10演題あり、この分子の病態における役割が注目されつつあると感じました。

 今回の学会参加を通し改めてヒトサンプルを用いた研究の重要性を再認識しており、今後も実際の患者さんでどういった現象が起こっているのか、という事を基本理念として本学会における成果を更なる病態解明の為の研究に役立てたいと考えております。

 最後になりましたが、本学会での研究発表に対し御支援頂きました日本リウマチ財団へ深謝いたします。

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 永原 秀剛   京都府立医科大学附属病院 免疫内科学教室 大学院生

 この度、日本リウマチ財団より「国際学会におけるリウマチ性疾患調査・研究発表に対する助成」を賜ることとなり、2013年10月 26日から30日までサンディエゴで開催されました米国リウマチ学会に参加いたしましたので、その報告をさせて頂きます。

 出発当日、日本に台風27号、28号が急接近しており飛行機が飛び立てるか朝から不明という状態でした。しかし定刻より30分遅れ程度で無事に日本を出発でき、予定通り無事にサンディエゴに到着することができました。今回米国リウマチ学会が行われたサンディエゴ市はアメリカ有数の年間を通して過ごしやすい気候の土地であり、町に降り立ったときから心地のよい乾燥した風に吹かれて、とうとう念願の米国リウマチ学会にやってきたのだと気分が高揚しました。

 私にとっては今回が国際学会で初めての発表で、「The role of Sphingosine 1 phosphate receptor 3 in collagen induced arthritis model」というタイトルでPoster Presentationをさせて頂きました。Sphingosine 1 phosphate (S1P)とは血漿中に存在する脂質メディエーターです。S1Pは細胞膜上に存在するS1P受容体のリガンドとして細胞運動制御やアクチン骨格形成、細胞増殖、接着結合形成など様々な細胞応答を引き起こすといわれています。S1P受容体にはこれまで1~5までの5つの受容体が見つかっております。近年、健常人に比較して肺炎患者の末梢血中の好中球においてS1P3受容体の発現が亢進しているという報告があり、また、ヒトの滑膜線維芽細胞においてS1P1~3受容体の発現が報告されていることから、我々はS1P3受容体に着目し、この受容体と関節炎との関係をコラーゲン誘導関節炎(CIA)モデルを作成し調べることとしました。CIAをwild typeおよびknockout miceに発症させ、それぞれのマウスでの関節炎の度合いを関節炎スコアおよび病理学的スコアで比較し評価しました。結果、S1P3 knockout miceにおいて有意に関節炎の抑制を認めたことから、その機序について考察を行い、今回のPosterで発表させて頂くこととなりました。発表の当日には様々な国の研究者が私のポスターに訪れて下さり、多くの質問や貴重な指摘をして下さりました。英語でどこまで正確に相手の質問に対して返答できたかわかりませんが、何よりも多くの方が自分の研究に興味を持って下さっていたことが、今後の研究への大きな励みとなりました。

 この度は日本リウマチ財団より貴重な助成を頂き、米国リウマチ学会に参加することができたことを深謝申し上げます。今回の経験を活かしてさらに研究を進めていき、臨床への応用に繋げていくことができればと思っております。貴重な経験を助成して頂き、本当にありがとうございました。

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 日和 良介   京都大学大学院 医学研究科 内科学講座 臨床免疫学 大学院生

 国際学会におけるリウマチ性疾患調査・研究発表助成を賜り,2013年10月26日から30日に米国サンディエゴで開催された,アメリカリウマチ学会(ACR2013)に参加させて頂きました.

 10月29日に2つのポスター発表を行いました.私は,関節リウマチ(RA)の自己抗体,特に抗シトルリン化ペプチド/蛋白抗体(ACPA)の病因・病態との関連について研究を行っております.2題の発表はいずれも, ACPAとRAに関する臨床研究の成果をまとめたものです.

 1つ目の演題は,“Only Rheumatoid Factor-Positive Subset Of Anti-Citrullinated Peptide/Protein Antibody-Negative Rheumatoid Arthritis Seroconverts To Anti-Citrullinated Peptide/Protein Antibody-Positive”です.早期RAと晩期RAでのACPAの陽性率に乖離があることに注目し,後方視的にACPAの陽転化率を調べることを目的としました.ACPAが2回以上測定された149例のうち,8例(5.4%)でACPAが陽転化しました.陽転化症例は全例でリウマトイド因子(RF)陽性で,単純X線写真で骨びらんを認めました.また,ACPA陰性RF陰性RAの症例は,一例も陽転化していませんでした.これらの結果から,ACPA陰性RF陰性RAと,ACPA陰性RF陽性RAは異なるサブセットである可能性が示唆される,と考察しました.

 2つ目の演題は,”Clinical Characteristics Of Rheumatoid Factor-Positive Or Negative Subsets Of Anti-Citrullinated Peptide/Protein Antibody-Negative Rheumatoid Arthritis”です.我々の研究室で近年,ACPA陰性RAを更にRF陽性群とRF陰性群に分け,これらの群でHLAが異なることを示しました.今回の研究では, ACPA陰性RF陽性RAとACPA陰性RF陰性RAの臨床的特徴を調べることを目的としました. 451例のRA患者のうち,84例がRF陰性で,うち43例がRF陽性,41例がRF陰性でした.RF陽性例では有意に女性が多かったですが,それ以外の臨床的特徴(罹患関節の分布,抗核抗体陽性率,疾患活動性.治療,関節破壊の進行度)には有意な差は認められませんでした.以上の結果から,ACPA陰性RF陽性RAとACPA陰性RF陰性RAは,遺伝学的には異なるサブセットであるが,臨床的な差異は認められなかったと結論しました.

 様々な国のrheumatologistにポスターを見て頂くことができ,数名の方から興味深い内容だと言って頂けました.質疑応答では,ACPAについて研究している米国の研究者から,興味深い示唆を頂く事ができました.後方視的検討の限界も改めて感じました.また,ACPA陰性RAに関心を持っているrheumatologistは少なくないことを実感し,今後の更なる研究への意欲が掻き立てられました.

 学会を通して,基礎,臨床あるいは両方にまたがるACPAに関する発表を聴き,勉強になるとともに非常に刺激を受けました.また,治験が進行しているRAの新規治療についての発表を聴いたり,米国での実臨床でどのような治療を行っているかを直接聴いたりと,得る所が大きかったです.

 最後に,今回の学会発表に際しまして貴財団より助成金という形で多大なる御支援を賜りましたことに厚く御礼申し上げます.

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