2013年6月12日から15日の日程でスペイン・マドリードで開催されましたヨーロッパリウマチ学会(EULAR)にて、日本リウマチ財団より国際学会におけるリウマチ性疾患調査・研究発表に対する助成を頂き、発表させていただきました。私は「日本全国調査による、全身性エリテマトーデスの患者サブグループおよび症状の出現パターンの同定と症状・検査所見の性・年齢関連の同定」というテーマで発表しました。
全身性エリテマトーデス(SLE)は厚労省により特定疾患に指定されている膠原病の一種で、日本全国で約5万人の患者さんがいます。副腎皮質ステロイドや免疫抑制剤の投与により生命予後は改善してきましたが、まだ十分でなく、臓器障害や重篤な合併症にて致死的な転帰をたどることも少なくありません。治療及び予後の改善には疾患病態の解明が不可欠であり、そのためにはいかに多くの質の担保されたデータを解析するかが重要になります。私は、SLE患者さんのほとんどが登録している特定疾患申請書の内容を電子化されたデータである2003年から2010年ののべ256,999人のデータを基に解析を行いました。電子化されたデータの割合は年によって均一でなく、当初は申請書の内容をどこまで信頼できるかが問題の一つでしたが、解析の結果認めた傾向は年度に関わらず一定であり、各年で同じぐらいのデータの振れ幅をもって信頼を置けるものと考えられました。
解析の結果、我が国において年齢調整発生率は10万人当たり1.94人、有病率は35.21人、男女比は1:8.23と推定されました。また、膠原病家族歴のある患者さんほど発症が若いことが分かりました。腎障害とディスコイド疹は特に男性に、関節炎・光線過敏・血球減少は特に女性に多いことが分かりました。自己抗体と蝶形紅斑は特に若い患者さんに、漿膜炎と関節炎は特に高齢の患者さんに多いことが分かりました。光線過敏は特に病歴の長い患者さんに、自己抗体の産生・漿膜炎・血球減少は特に発症後間もない患者さんに多いことが分かりました。
クラスター解析の結果、SLE患者さんは発病後一年以内の患者さんは症状の出方に従って10のグループに、発病後一年以上の患者さんは8のグループに分かれることが分かりました。一方、SLEの主要症状11項目を用いた解析では、発病後一年以内でも一年以上でも、症状は大きく二つのグループに分かれることが分かりました。それらは、臓器特異的な症状のグループと、より一般的な、血液学的・血清学的異常を示す症状のグループに特徴づけられました。
また、SLEに伴う合併症の解析の結果、SLEの心筋梗塞及び脳梗塞のリスクは、抗リン脂質抗体症候群に関連する自己抗体の数依存的に上昇し、関連自己抗体がなくとも一般人口よりかなり高い可能性が示唆されました。また、各種合併症とSLEにおける自己抗体の関連を解析し、どの自己抗体を持つ群がどの合併症を持つリスクが高いのかを示しました。
我々の解析結果は、SLEがheterogeneityな疾患である一方、膨大な症例を集めても限定的なサブグループに分かれることを示しており、これらサブグループにおける疾患の進展や合併症、生命予後の解析により、将来的に個々人の病態に応じた適切な治療アプローチを選択できるようになる可能性を示唆しています。特定疾患調査票は年度をまたいで個々人を追跡可能な形式にはなっていませんが、今後、長期的に患者さんを追跡調査することによってより確かなことが分かると考えています。現在、本研究結果につき論文作成中です。
学会場では、詳細な解析方法に対する質問などはありませんでしたが、発表の写真を撮る人が何人もいて関心の高さを伺わせました。
学会を通して、SLE領域についてのブレイクスルーと呼ぶべきトピックはありませんでしたが、SLEと関連の深いシェーグレン症候群について全ゲノム関連解析結果の発表がありました。また、関節リウマチの治療に関するrecommendationの発表があり、そちらに注目が集まっていました。
最後になりましたが、今回の発表のためにデータを提供してくださった住田研究班の先生方、助成により発表の手助けをしてくださった日本リウマチ財団に深謝申し上げます。 |