国際学会におけるリウマチ性疾患調査・研究発表
ヨーロッパリウマチ学会(EULAR2013) 報告書

 

氏名

所属

岡邨 興一

群馬大学医学部附属病院 整形外科 助教

京都大学大学院 医学研究科附属ゲノム医学センター 特定助教

吉見 竜介

横浜市立大学医学部 免疫・血液・呼吸器内科学 助教


  岡邨 興一   
 群馬大学医学部附属病院 整形外科 助教

群馬大学大学院整形外科学 岡邨興一です。この度は、国際学会におけるリウマチ性疾患調査・研究発表助成を頂き有り難うございました。平成25年6月12日~15日までスペインのマドリッドにて開催されましたヨーロッパリウマチ学会にて発表・討論させて頂きましたので、ここに報告させて頂きます。今回の学会へは、パリ経由で現地入りする予定でしたが、パリの管制官のストライキという珍事で日本からの航空機が欠航し、学会初日の深夜に現地入りとなりました。翌朝より学会参加となりましたが、現地は半袖で十分なほど温暖であり、連日好天にも恵まれました。一昨年ロンドン、昨年のベルリンとはまた違った南ヨーロッパの雰囲気を感じさせる学会場であったと思います。

学会場では関節リウマチをはじめとするリウマチ性疾患に対する生物学的製剤の治療成績や、まだ治験段階である経口抗リウマチ薬等の発表が目にとまりました。私の発表演題は、
「EVALUATION OF CONVENTIONAL ASSESSMENT OF TOCILIZUMAB THERAPY IN PATIENTS WITH RHEUMATOID ARTHRITIS USING FDG-PET/CT」で、血清マーカーが臨床評価になりにくいトシリズマブの治療効果判定を、FDG-PET/CTを利用してRA関節における滑膜の活動性を半定量化することにより数値化して評価したもので、本研究の現時点での結果から、トシリズマブの効果は治療開始後3ヶ月時に施行したFDG-PET/CTにて滑膜抑制効果として確認され、従来のDAS28やSDAIを利用した疾患活動性評価と相関を認めました。会場では、研究デザインに関する質問や、PET検査の意義についての質問などを受け、これらの議論を通じて本研究を発展させ、今後の研究に生かすことが出来そうです。最後に、本助成にあたり御支援いただきました日本リウマチ財団の髙久史麿代表理事および関係する皆様へ深謝いたします。

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 寺尾 知可史   京都大学大学院 医学研究科附属ゲノム医学センター 特定助教

2013年6月12日から15日の日程でスペイン・マドリードで開催されましたヨーロッパリウマチ学会(EULAR)にて、日本リウマチ財団より国際学会におけるリウマチ性疾患調査・研究発表に対する助成を頂き、発表させていただきました。私は「日本全国調査による、全身性エリテマトーデスの患者サブグループおよび症状の出現パターンの同定と症状・検査所見の性・年齢関連の同定」というテーマで発表しました。

全身性エリテマトーデス(SLE)は厚労省により特定疾患に指定されている膠原病の一種で、日本全国で約5万人の患者さんがいます。副腎皮質ステロイドや免疫抑制剤の投与により生命予後は改善してきましたが、まだ十分でなく、臓器障害や重篤な合併症にて致死的な転帰をたどることも少なくありません。治療及び予後の改善には疾患病態の解明が不可欠であり、そのためにはいかに多くの質の担保されたデータを解析するかが重要になります。私は、SLE患者さんのほとんどが登録している特定疾患申請書の内容を電子化されたデータである2003年から2010年ののべ256,999人のデータを基に解析を行いました。電子化されたデータの割合は年によって均一でなく、当初は申請書の内容をどこまで信頼できるかが問題の一つでしたが、解析の結果認めた傾向は年度に関わらず一定であり、各年で同じぐらいのデータの振れ幅をもって信頼を置けるものと考えられました。

解析の結果、我が国において年齢調整発生率は10万人当たり1.94人、有病率は35.21人、男女比は1:8.23と推定されました。また、膠原病家族歴のある患者さんほど発症が若いことが分かりました。腎障害とディスコイド疹は特に男性に、関節炎・光線過敏・血球減少は特に女性に多いことが分かりました。自己抗体と蝶形紅斑は特に若い患者さんに、漿膜炎と関節炎は特に高齢の患者さんに多いことが分かりました。光線過敏は特に病歴の長い患者さんに、自己抗体の産生・漿膜炎・血球減少は特に発症後間もない患者さんに多いことが分かりました。

クラスター解析の結果、SLE患者さんは発病後一年以内の患者さんは症状の出方に従って10のグループに、発病後一年以上の患者さんは8のグループに分かれることが分かりました。一方、SLEの主要症状11項目を用いた解析では、発病後一年以内でも一年以上でも、症状は大きく二つのグループに分かれることが分かりました。それらは、臓器特異的な症状のグループと、より一般的な、血液学的・血清学的異常を示す症状のグループに特徴づけられました。

また、SLEに伴う合併症の解析の結果、SLEの心筋梗塞及び脳梗塞のリスクは、抗リン脂質抗体症候群に関連する自己抗体の数依存的に上昇し、関連自己抗体がなくとも一般人口よりかなり高い可能性が示唆されました。また、各種合併症とSLEにおける自己抗体の関連を解析し、どの自己抗体を持つ群がどの合併症を持つリスクが高いのかを示しました。

我々の解析結果は、SLEがheterogeneityな疾患である一方、膨大な症例を集めても限定的なサブグループに分かれることを示しており、これらサブグループにおける疾患の進展や合併症、生命予後の解析により、将来的に個々人の病態に応じた適切な治療アプローチを選択できるようになる可能性を示唆しています。特定疾患調査票は年度をまたいで個々人を追跡可能な形式にはなっていませんが、今後、長期的に患者さんを追跡調査することによってより確かなことが分かると考えています。現在、本研究結果につき論文作成中です。

学会場では、詳細な解析方法に対する質問などはありませんでしたが、発表の写真を撮る人が何人もいて関心の高さを伺わせました。

学会を通して、SLE領域についてのブレイクスルーと呼ぶべきトピックはありませんでしたが、SLEと関連の深いシェーグレン症候群について全ゲノム関連解析結果の発表がありました。また、関節リウマチの治療に関するrecommendationの発表があり、そちらに注目が集まっていました。

最後になりましたが、今回の発表のためにデータを提供してくださった住田研究班の先生方、助成により発表の手助けをしてくださった日本リウマチ財団に深謝申し上げます。

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 吉見 竜介   横浜市立大学医学部 免疫・血液・呼吸器内科学 助教

このたび,私はスペイン国マドリッドにて本年6月12日より4日間の日程で開催された欧州リウマチ学会(EULAR 2013)に参加し,①“Total power Doppler score-8 is a useful diagnostic marker of musculoskeletal ultrasonography for screening and activity measurement of rheumatoid arthritis”および,②“Ultrasonography is useful for predicting Boolean remission after achieving DAS28-based clinical remission of rheumatoid arthritis”の2演題についてポスター発表(6月15日,10:15~12:00)を行いました.その発表内容は以下のとおりです.

①“Total power Doppler score-8 is a useful diagnostic marker of musculoskeletal ultrasonography for screening and activity measurement of rheumatoid arthritis”

関節超音波検査(US)による評価指標の一つとして滑膜炎の活動性を反映するパワードップラー(PD)が用いられていますが,評価に最適な関節部位や関節数についてはまだ議論の余地があります.本研究では関節リウマチ(RA)においてUSで評価する際に最適な関節部位の組み合わせを検討しました.その結果,RAのスクリーニングや活動性把握において両側の第2,第3MCP,手,膝関節の計8関節におけるPDスコアの総和(総PDスコア-8)が24関節(全PIP,全MCP,両手,両膝関節)のPDスコアの総和とほぼ同等の有用性をもつことを明らかにしました.

②“Ultrasonography is useful for predicting Boolean remission after achieving DAS28-based clinical remission of rheumatoid arthritis”

臨床的寛解はRA治療の目標としての共通認識となりましたが,その定義についてはまだ議論の余地があります.本研究ではDAS28寛解基準を維持中のRA患者がその後さらに厳しい寛解基準であるBoolean寛解へ到達する可能性を予測する際の関節USの有用性を検討しました.その結果,グレースケール(GS)スコアの総和とPDスコアの総和がいずれも低値であることがその後のBoolean寛解到達と関連しており,関節US所見が真のRA寛解を予測するのに有用であることが示唆されました.

質問としては,関節USのセッティングの条件,日常診療で関節US検査に要する所要時間等の具体的な検査内容,今後の研究の方向性など多岐にわたり,関節USに対する関心の高さを感じることができました.最近,関節破壊の進行を抑えるためにはこれまで用いられてきたDAS28に基づく寛解基準よりより厳しいSDAI寛解やBoolean寛解の基準を用いることが推奨されてきています.また,日常診療における関節USの普及においては検査に要する所要時間が障害の一つとなっています.それらの点において,今回世界最大のリウマチ学会の一つであるEULARにおいて当科での研究結果を世界に発信した意義は非常に高いと考えております.他グループからもUSで観察すべき関節部位,理学所見とUS所見の関連性,治療効果判定への関節USの応用など,関節USに関する報告がいくつかなされていました.これらの発表は今後の関節USを用いた日常診療および研究のために大変参考になりました.

今回の学会参加による成果として,特に以下の3点を挙げたいと思います.①発表終了後,学会での議論を基にして本テーマで得られた成果を論文化して投稿する予定です.②今後の関節USに関する研究の発展の方向性を検討するきっかけとなりました.③関節USの最新の知見が得られ,当教室が年2回開催している関節US講習会の内容を拡充させるヒントが得られました.当科は国内では最も早期から関節USを導入している教室の一つであり,関節USが当科における研究の主要テーマの一つであるのみならず,講習会の開催などを通して関節USの国内での普及に努めております.今回の学会参加で得られた成果を生かして,今後の関節US研究の発展および日本国内での実臨床での関節USの普及の一助となりたいと考えております.

最後に,今回の学会発表に際しまして貴財団より助成金という形で多大なる御支援を賜りましたことに厚く御礼申し上げます.

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