国際学会におけるリウマチ性疾患調査・研究発表に対する 助成者報告書(EULAR 2023)

京都府立医科大学免疫内科学 

平野 愛子

 

私はこの度、『ヨーロッパリウマチ学会2023におけるリウマチ性疾患調査・研究発表助成』を受け、ヨーロッパリウマチ学会2023に参加・研修する機会を頂き、貴重な経験をさせて頂きました。心より感謝しております。

 私は6月2日のPoster Tour 、“Pathogenic pathways in Systemic Sclerosis and Myositis”のセッションで発表する機会に恵まれ、“Single-cell RNA sequencing of bronchoalveolar lavage fluid and blood reveals disease-specific characteristics of immune cells in connective tissue disease-associated interstitial lung disease patients”という題で発表致しました。本研究は、新規に間質性肺炎を合併した膠原病の患者さまの、気管支肺胞洗浄液(BALF)と血液を用いてシングルセル解析を行い、疾患毎の特徴を明らかにすることを目的としております。今回のポスターでは、Sjögren症候群と皮膚筋炎に注目し発表致しました。質疑応答では、本研究で得られた結果を、遺伝子レベルではなく、臨床的に評価可能な蛋白レベルで知ることはできるのかというご質問を頂き、本研究では、BALF中のケモカインや補体の値にも疾患毎の違いがみられたことを伝えましたが、本研究で示唆された、疾患毎の遺伝子発現の差異の中で、どの経路が鍵となり重要であるのか、臨床にどう活かしていくのかについては、さらに研究をすすめ明確にする必要があるとあらためて感じました。Poster Tourでは、他の発表者の発表内容だけでなく、誰一人としてメモを参照することもなく、(まるで新製品のプロモーションのようによどみなく)堂々とプレゼンテーションをされた姿勢に圧倒されました。さらに、聞き手も、短い時間の中で、一つ一つの研究発表を、みんなで盛り上げ、新しい知見を共有しようと積極的だったのが印象的でした。刺激的で、貴重な時間を過ごさせて頂けたことに感謝しております。

 様々なセッションに参加しましたが、Sjögren症候群に合併する間質性肺炎について調べたこともあり、Sjögren症候群のセッションにも参加しました。そこでは、インターフェロン(特にTypeⅠ)がSjögren症候群の病態に重要であることや、CD40やBAFF受容体に対する抗体治療など様々な治験が進んでいること、幹細胞治療も試されていることを知りました。今は、Sjögren症候群の一般的な治療は、活動性の腺外症状がなければ、乾燥症状への対症療法となるかと存じますが、こうして治療が進んでいくことに希望を感じました。また、新しい情報を知り、常に治療をアップデートする責任を感じました。

今回のEULARは、COVID-19感染症のパンデミックを経て、久しぶりにオンサイトで開催されたためか、そこかしこで再会を喜びハグし合う姿がみられました。学会は、直接会い、意見を交わし、新たな課題に協力して取り組むきっかけとなる大事な場であるのだと実感し、そのような場に、今後も積極的に参加していきたいと感じました。

貴重な機会を与えて頂き、本当に、ありがとうございました。

 

東京大学大学院医学系研究科 アレルギー・リウマチ学

吉原 理紗

今回、イタリア・ミラノで行われたEULAR2023に参加し、“Investigating the synovial pathology related to treatment resistance in Japanese rheumatoid arthritis patients using single-cell analysis”という演題でポスター発表を行いました。関節リウマチ(RA)は、生物学的製剤を始めとした抗リウマチ薬の登場により治療が発展した一方、いまだ薬剤選択は試行錯誤的です。寛解に至る患者は約半数に過ぎず、治療反応性が不十分なままDifficult-to-treat RA (D2T RA)に至る患者も一定数存在します。そうした治療困難な滑膜炎に至る分子生物学的環境を明らかにすべく、我々は日本人RA患者における滑膜生検検体を用いたtranslational researchを進めております。今回の発表では、中~高疾患活動性のRA患者から滑膜生検により滑膜を採取し、滑膜情報と臨床情報の統合解析を行いました。滑膜のフローサイトメトリー解析を用いた多変量解析の結果、生物学的製剤等による治療下でも疾患活動性が残存する患者では、滑膜線維芽細胞(SF)の比率が多い傾向がみられました。このことから、SFは既存の治療薬により抑制されにくい細胞種であることが示唆されました。そこで、滑膜のsingle cell RNA sequencing (scRNA-seq)解析によるSFの詳細なクラスタリングを実施しました。その結果、THY1low sublining fibroblastの一部は、炎症性サイトカイン刺激により誘導されるシグネチャーやTNF阻害剤およびJAK阻害剤により抑制されるシグネチャーの発現が乏しい亜集団として特徴づけられました。また、生検時にそのSF亜集団の比率が多い患者では、生検後に使用したIL-6阻害剤やTNF阻害剤に対する治療反応性が悪い傾向を認めました。現在、このSF亜集団が、日本人RA患者の治療抵抗性に寄与する可能性を考え、in vitro実験によりその機能解析を進めています。

ポスター発表では、特に北欧のRA研究に携わる研究者とオンサイトで活発な議論を行うことができました。本研究に関して、今後の検討課題について考察を深めることができ

、大変有意義な時間でした。また、他のセッションでも世界各国から集まった臨床医・研究者によるcutting-edgeな発表を聴講し、視野が広がるとともに、研究活動のモチベーションを更に高めることができました。

このような貴重な機会に関しまして、日本リウマチ財団より温かいご支援をいただけたことに、心より御礼申し上げます。