近畿地区

平成24年10月7日開催

 


関節リウマチの薬物治療

京都府立医科大学大学院医学研究科
免疫内科学 教授  
 川人 豊 先生

   近年、生物学的製剤の登場により、関節リウマチ(RA)の治療戦略が画期的に変化してきている。関節リウマチの治療の目標は、国際的なエキスパートコンセンサスであるTreat to Target(T2T)にもあるように、まず臨床的寛解を達成することであり、長期罹病患者においても少なくとも低疾患活動性の状態を目指すとされている。近年、その臨床的寛解の新しい基準がACR(米国リウマチ学会)とEULAR(欧州リウマチ学会)より合同で発表された。将来的に臨床的寛解のみならず、構造的寛解、機能的寛解の3つを満たす“真の寛解”を目指す寛解基準で、従来汎用されてきたDisease activity score (DAS)28の寛解基準より厳しいものである。この治療目標を達成するために、ACR/EULARの新分類基準を応用した早期診断に加え、早期からのTight Control(強化治療)の重要性が指摘されている。経口の抗リウマチ薬では、本邦で16mg/週まで増量可能となったメトトレキサート(MTX)単独療法だけでも早期に治療開始すれば、30%程度に骨破壊の進行のない状態に誘導できるが、疾患活動性が高く予後不良因子があれば、他の抗リウマチ薬との併用療法を含めた積極的な治療が推奨されている。
 
また、MTXに不応性の患者にも、6種類の薬剤が使用可能となった生物学的製剤を用いれば、低疾患活動性もしくは臨床的寛解まで誘導する事が可能となってきている。MTXや生物学的製剤の開発により人工関節手術は減少傾向にあるが、骨・関節破壊のある患者の機能障害の改善は難しく、早期に臨床的寛解を達成しなければ免れない。
  現状では、RA患者のADL、QOLの改善はいまだ十分ではなく、薬物治療戦略の普及とリウマチのチーム医療によるケアの向上が必要とされている。本講演では、寛解を目指した治療として、MTXと生物学的製剤の薬物治療戦略について概説したい。


戻る


関節リウマチの外科的治療とリハビリテーション

滋賀医科大学 リハビリテーション部 講師  
 川崎 拓 先生

  外科的治療を選択する上で、最も重要なのは手術適応と手術時期の選択である。適切な手術が適切なタイミングで行われなければ、たとえ技術的に手術が成功し、よいリハビリテーションを行っても満足な結果を得られない。関節リウマチ(RA)の診療にあたる医師はRAに対する各手術法の特徴を理解し、トータルマネジメント能力を高める必要がある。また看護師、理学療法士、作業療法士、ソーシャルワーカーなどのコメディカルスタッフと協力して、術後管理とリハビリテーションを行うことも重要である。また現在多くの病院ではクリニカルパスを導入して治療の標準化を目指しているが、RA患者さんは個々の病態が異なるため標準化しにくい。つまり手術する部位だけをみてはいけない。

・手術法の種類と適応

  1) 滑膜切除術:早期(軟骨や骨が傷んでない状態の症例)の膝関節や、手関 節の伸筋腱断裂に伴い施行されることが多い。
  2) 人工関節置換術:関節破壊が進行し日常生活動作に障害のある場合に施 行される。ほとんどが股関節と膝関節で、その他肘関節、足関節、肩関節、指関節にも施行される。
  3) 関節固定術・関節形成術:主に手足の関節破壊による機能障害や痛みに 対して施行される。
  4) 頚椎手術:進行性あるいは重度の脊髄症状のある場合や、保存治療に抵抗する強い疼痛に対して施行される。

・手術の前にチェックしておくこと

  1) 手術部位以外の関節の状態:杖はつけるのか、車椅子は使用可能かなど 術後リハビリテーションメニューも画一的でなく、個々の患者さんに応じて工夫する必要がある。
  2) 内服薬(ステロイド、免疫抑制剤)の確認、生物学的製剤を使用している場合は術後いつ再開するのかも確認しておく。
  3) 全身状態のチェック:麻酔のリスク(貧血、心肺機能、腎機能)の有無、全身麻酔の場合頚椎病変の有無や十分開口できるかもチェックが必要。
  4) 術後のゴール設定:手術して終わりというわけにはいかない。ソーシャルワーカーの協力も得て必要な福祉サービスも活用していく。

 生物学的製剤の登場により関節破壊は抑制され、外科的治療の件数は今後減少していくことが予想される。しかしながら薬物療法にも限界があり、外科的治療が必要な患者さんはまだまだ多数存在することを認識してRA治療にあたって頂ければ幸いである。


戻る


炎症フリーの時代の関節リウマチの疼痛治療について

尼崎中央病院 整形外科 第2部長 
大阪大学疼痛医療センター
三木 健司 先生

  関節リウマチを始めとするリウマチ疾患は主に「炎症」をコントロールすることに主眼が置かれてきた。しかし、MTX、生物学的製剤の登場と共に「炎症フリー」という状態に持ち込めるようになった。また「炎症」が関連しないリウマチ類縁疾患として線維筋痛症など疼痛性疾患も治療の対象となりつつある。
  通常、器質的な「痛み」は侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛に分類され、それ以外の器質的疼痛でないものは全てが心因性疼痛と分類されがちであるが、器質的疼痛でないものの中に機能性疼痛症候群も存在すると考えられている。
  機能性疼痛症候群は、King's College LondonのSimon Wesselyが提唱した機能性身体症候群という概念に含まれるものである。機能性身体症候群は諸検査で器質的あるいは特異的な病理所見を明らかにできない持続的な特異な身体愁訴を特徴とする症候群で、それを苦痛と感じて日常生活に支障を来しているために、様々な診療科を受診する。「過敏性腸症候群」はその代表的なものであり、以前は心因性と言われたこともある病態であるが、現在疾患の認知度が進み、5-HT3受容体選択的阻害剤による治療が多くの一般医療機関にて行われている。
  近年、運動器慢性疼痛の治療薬の研究が進み、急性痛と異なりプロスタグランジンではなく、下降性抑制系でのセロトニン、ノルアドレナリン、中枢でのグルタミン酸などに作用する薬剤が治療薬として使用されるようになった。
  関節リウマチが適切に炎症コントロールされた状態において、下降性抑制系に作用するトラマドール・アセトアミノフェン配合錠や抗うつ薬を使用することにより、患者の感じる「痛み」やADLを改善することができるようになった。機能性疼痛症候群という考え方を導入することで、器質的でない「痛み」を心因性と決め付けることなく、治療できることは患者にとっても、医師にとっても有用なことであると考えられる。線維筋痛症の治療に対しても治療薬が登場し状況は改善しつつあると考えている。


戻る


医療コーディネーターとしての役割

医療法人社団虎の門会 霞ヶ関リウマチ治療研究所
看護ケア主任研究員 
澁谷 美雪 先生

  リウマチ医療におけるチーム医療の必要性については、既に広く周知されていることであるが、それぞれの役割を明確に示唆した文献は非常に少ない。医療法に登場してくる「医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手」は、全てチーム医療におけるチームメンバーであり、コンダクターとも呼ばれる。
  医師、薬剤師、看護師だけであった職種も、医療法の制定とともに診療放射線技師や臨床検査技師、作業療法士や理学療法士、社会福祉士や介護福祉士などが国家資格化され、さらに診療録管理士や呼吸療法士、臨床心理士など国家資格化とはなっていない職種も医療の場に登場し、一人の患者に様々な職種が関わる状況が生まれている。そして、それぞれの職種が治療の担い手となり大きな役割を果たしている。
  リウマチ医療の治療法は、新たなRAの予備診断基準、T2Tなど施設間格差を無くし、グローバルスタンダードを目指した治療が行われている。患者の医療に対するニーズは治療や薬剤の進歩とともに高まり、患者自身が治療や予後を選択し、能動的に治療が進められる患者参加型の医療となってきた。患者の希望と治療の現実に関することだけでなく、遺伝子操作や脳死判定など生死に関与することなど、従来の価値観では対応しきれない複雑で倫理的な問題も挙げられ、看護師はそのような状況に日々直面しながら看護にあたっている。
  では、そうした治療の中で看護師はどのような位置づけで、どのような視点を持ち、どのようにチームの一員として役割を担っていく必要があるのか?また、今後、さらに求められる役割とは何かを今回考えていきたい。


戻る


生活を支えるリハビリテーション
~作業療法士の立場から~

医療法人行岡医学研究会 行岡病院 
リハビりテーション部 作業療法科 主任
岡本 明大 先生

   関節リウマチにおけるリハビリテーションとは、「人間らしく生きる権利を回復すること。すなわち、人間が人間にふさわしくない状態になってしまったときに、それを再び人間にふさわしい、望ましい状態にもどすということを意味する。その目的のために、薬、手術、機能訓練、補装具など、また、経済的な裏づけとしての障害年金、制度活用としての身障手帳など、リウマチ患者のQOL向上にかかわる総てのことをさす」(リウマチ白書,2000)。
  作業療法では疼痛の緩和、関節可動域や筋力の維持・改善、装具を作製して手指の機能改善を図ることを基軸としながら、日常生活活動訓練や自助具の作製、関節保護方法の指導を行うことで活動性を高めること、住環境の整備や患者教育、心理面のサポートを行ない社会参加の促進を図ることにより、生活機能に支障があっても活動的で生きがいのある生活を取り戻す支援を行っている。これはWHO(世界保健機構)が提唱しているICF(国際生活機能分類)の「患者が生きること全体を生活機能として捉えて、残された能力の改善をはかる」という視点と同じである。
  関節リウマチの医療はこの10年で大きく発展し、早期より薬物療法を積極的に導入することで、関節破壊・機能障害の阻止、関節リウマチの完全寛解も可能となってきた。一方で、生物学的製剤により疾患活動性のコントロールが良好の患者であっても、現存する骨の脆弱や靱帯の弱化は改善されず、過度な運動や使用によって腱断裂や軟骨破壊の進行など、新たな障害(オーバ-ユース症候群)が生じることがある。関節破壊については、発症1~2年以内の早期に最も急速に進行することが明らかになっている。このことから、リハビリテーションをより発症早期から開始することも重要であり、作業療法では早期からの関節破壊の予防、関節保護方法の指導を含めたADL訓練や指導、仕事や趣味活動の際の手の使用方法や使用量の把握と指導、装具作製を実施する必要がある。
  また、リハビリテーションが早期や入院中の関わりのみになるのではなく、定期的に身体機能、ADLなどの評価を行い、変化に応じた患者指導を実施することも重要である。在宅での医療・介護サービスとの連携を図り、生活場面での評価やアプローチ・指導を実施し、より長期的に多職種で関わることも必要である。


戻る


薬剤師の立場から

松原メイフラワー病院 臨床研究部 薬剤部(CRC)
舟橋 恵子 先生

  生物学的製剤の登場により、関節リウマチ治療にパラダイムシフトが起こり、その結果、関節リウマチの診断、関節リウマチ治療方針、寛解定義は改変された。現在では、6剤の生物学的製剤、メトトレキサート(MTX)などの4つの免疫抑制剤、サラゾスルファピリジンなど免疫調節剤などの治療を発症早期から行い、疾患をタイトコントロールすることで、関節リウマチの予後改善をもたらすとされている。しかし強力な治療は時に重篤な副作用をもたらすことがあるため、薬剤師が個々の薬剤の特性を把握し、服薬指導において、患者にわかるように説明し、患者自身による管理の重要性を説くことは極めて重要である。当院では生物学的製剤導入時は入院としているが、これは安全性確保のための検査入院だけではなく、服薬指導や自己注射指導といった教育入院を兼ねている。基本薬としてのMTXは公知申請により、昨年から16mg /週まで使用できるようになり、多くの施設で8mg以上の高用量を積極的に使用するようになっている。しかし高用量時の副作用については市販後調査中であり、その副作用も胃腸障害、肝機能障害、口内炎、骨髄抑制、間質性肺炎と多岐にわたっているため、パルス的な服用方法に留意するだけでなく、副作用についても適切な指導を行う必要がある。特にMTXは外来診察で初診時より処方されることが多く、一般的な院外薬局での指導だけでは不十分であることもあるため、院内説明文書を作成するなどきめ細かい対応が必要である。昨年我々が患者を対象としたアンケート結果によれば、患者がもっとも不安なことは薬剤の副作用であり、もっとも知りたいことは薬剤の効果であった。またもっとも期待することは確実な効果であった。医師だけでなくすべての医療従事者はこのような不安を取り除き、期待されている薬剤の効果について納得するまで、患者に説明する必要がある。関節リウマチ領域では新薬の開発が多く行われており、他の作用機序を持つ生物学的製剤や、新しい作用機序の細胞内のシグナル伝達阻害剤が市場に出てくる可能性が高い。これらの副作用はこれまでとは若干異なる可能性もあるため、我々は日々の勉強を怠らず、最新情報を的確に患者に伝えていく必要がある。


戻る

 
日常診療で気をつけていること

医療法人さざなみ整形外科 院長 
牛山 敏夫 先生

 関節リウマチの診療においては、疾患のコントロールとともに、薬の副作用や合併症の早期発見、その対応が重要である。そのためには、患者さんと十分にコミュニケーションをとり、定期的な診察や検査でその状態を把握する必要がある。 
  しかしながら、多くの変性疾患や外傷を扱う整形外科診療所において、上記のことは不十分になりがちである。また、患者サイドにおいても、症状を上手く表現できなかったり、さまざまなバックグラウンドにより定期的な通院が困難な場合もある。
  患者さんの状態の変化を早期に把握するために、当院で行っている工夫のいくつかを具体的に紹介する。

  1) 電子カルテの利用:カルテの指示欄に、「著変なければ薬のみで可」「次回は必ず診察」「次回は検査」などの指示をあらかじめ書いておき、診察、検査の空白を避ける。
  2) サマリーの作成:サマリー画面には、薬アレルギーやその他の注意事項、薬 物治療歴を含む病歴を一画面に表示し、治療経過がすぐにわかるようにする。また、職員がどこでも確認できるように、電子カルテを多く配置する。
  3) 職員の協力:看護師、理学療法士、受付事務員に、会話の中で気になることがあれば報告するように指示、院外薬局にも同様のお願いをしている。
  4) 生物学的製剤使用者一覧:ホワイトボードに名前を書いたマグネットシートを貼り、注射日を記入、常に通院状況を掲示する。
  5) 検査データのチェック:結果はそのつどチェック、異常値のあるときは電話で本人に連絡、必要なら時間外に診察、再検を行う。
  6) 電話による対応:患者さんに対しては「気になる症状」のあるときは電話でよ いので連絡するように言い、できるだけ対応する。

  患者さんには、治療は責任を持って行うと説明、一方、診療所の治療の限界を認識し、必要に応じて病院へ紹介、連携を行っている。


 

トップへ  戻る