日本リウマチ財団ニュース

No.170号 2022年1月号

国際学会報告

日本リウマチ財団ニュース170号に掲載しております「妊娠とリウマチの学会2021」 速報のロングバージョンです。

妊娠とリウマチの学会(RHEUMAPREG 2021)

11th International Conference on Reproduction, Pregnancy and Rheumatic diseases 学会速報

北田 彩子 氏
聖路加国際病院 Immuno-Rheumatology Center 医員

責任編集:岡田 正人
編集員/聖路加国際病院 Immuno-Rheumatology Center センター長

コロナ禍で2度の延期を経て、2021年8月26日から28日までvirtual開催となった今回の国際学会。前回第10回のスイス・ベルンでの開催から、約3年後の開催となり、今回も多くの知見を得ることができたので、皆様と共有させていただく。

妊娠転帰悪化のリスク因子およびバイオマーカー

 全身性エリテマトーデス(SLE)合併妊娠に関する大規模コホートのPROMISS studyでは、人種(非ヒスパニック系白人)、直近の降圧薬使用、血小板低下、ループスアンチコアグラント陽性、高疾患活動性(PGA>1)が妊娠転帰悪化(adverse pregnancy outcome:APO)のリスク因子として同定されている1)。また、20~23週におけるベースラインからのC3の低下が23週以降のAPOのリスクとなりうることも報告されていた1)が、さらに2018年の報告で妊娠12~15週の時点で補体活性化の指標となる、Bb、sC5b-9がAPOなし群と比較し、APOあり群で有意に上昇していることがわかった2)。また、古典経路活性化の指標となる、EC4dに関しても、既に第1トリメスターから上昇がみられることがわかった3)。これらの指標は研究段階にあり、今後の臨床応用が望まれる。

 妊娠高血圧腎症(preeclampsia:PE)の予測に有用とされるsFlt-1/PIGF比4)に関しては、ループス合併妊娠で妊娠12~15週までに、APOあり群でAPOなし群と比較して上昇すること5)や、ループス腎症とPEの鑑別にも有用である可能性があること6)などが報告されている。一般人口において、第1トリメスターでのPIGFの測定に関しては、10週以降でPE発症群と非PE発症群で増加幅に有意差が出てくること7)も鑑みると、SLE合併妊娠でも、10週以降15週までのスクリーニング検査が、よりハイリスク群の特定に有用な可能性がある。日本でも保険収載されたsFlt-1/PIGF比であるが実際に欧州の施設では入院決定の判断指標として用いられているとのことであり、さらなるデータの蓄積により、膠原病合併妊娠におけるスクリーニングや経過観察に関しての推奨が今後出てくるのではと期待している。

 

 また、低用量アスピリンの使用でPEの予防に繋がるとの報告8)が出てきているが、ドイツのI.Hasse氏らのSLE合併妊娠190例での検討では、妊娠16週までに低用量アスピリンを開始した群ではPEの発症がOR0.17(95% CI:0.04-0.76、p<0.05)と有意に減少することがわかった(年齢、BMI、慢性高血圧、第1トリメスターの疾患活動性、ループス腎炎の有無、PEの既往、ハイリスク抗リン脂質抗体プロファイルあるいは抗リン脂質抗体症候群[APS]の診断で調整)。アメリカリウマチ学会(ACR)ガイドラインでもSLE合併妊娠はPEのリスク因子であることが重要視されており、第1トリメスターから低用量アスピリンの開始が望ましいとされている9)。実際にSLE妊娠での予防のデータも出つつあり、日本でも今後処方率の向上に向けての啓蒙が必要と考える。

新生児ループス(NLE)および抗SS-A抗体陽性の女性の妊娠に関して

 まず先天性心ブロック(CHB)に関するカナダからの報告をご紹介する。Kan氏らはELISA法による抗Ro抗体の力価に応じて、CHBのリスク層別化を行い、定期的な胎児心エコーの必要性を検討した10)。抗Ro抗体のカットオフを50U/mLとし、高力価の母体にのみ、前子NLEの既往の有無に応じてそれぞれ毎週の胎児心エコー、あるいは1~2週ごとの胎児心エコーを行った。189妊娠の結果、前子CHBの母体7例を含む、127妊娠がハイリスク(抗Ro抗体>50/mL)であった。ハイリスクグループのうち、9妊娠で胎児心エコーの異常(1度-3度房室ブロックあるいは心内膜線維弾性症)がみつかり、その9例全例で抗Ro抗体>100U/mLであった。医療資源の限られている条件下では、連続的なエコーモニターはハイリスク症例に限定することも可能と考えられる。本研究では抗Ro抗体の測定はPhadia社のELISA法で行われており、結果の解釈には測定キット間の力価の差異が大きいことにも注意する必要があると考えられる11)

 また、2019年のACR年次総会でも発表されていた、多施設前向き研究のPATCH studyであるが、前子でCHBがあった場合の、次子妊娠時のCHB予防として、妊娠10週までにヒドロキシクロロキンを開始し、予測では18%が7.4%(90% CI: 3.4%-15.9%)と半数以上CHBを予防できたとのことである12)
 最近の流行としてさらに研究が進んでいるのは、シェーグレン欧州リウマチ学会(EULAR)推奨にも記載のある、ホームモニタリングである13)。1日2回の胎児超音波心音計による胎児心リズムのモニターで、リズム異常(2度以上の房室ブロック)があればCHB発症超早期に検知できる14)。これまでの症例報告では、12時間以内に検知できた4例で、デキサメタゾンおよびIVIGによる治療で出生時に正常洞調律への復調が得られたとのことである10,12,14,15)

 これまでCHBに対するデキサメタゾンおよびIVIG治療に関しては、175例の後ろ向き多施設研究では、治療効果に関して否定的な報告もあった16)が、発症超早期の治療開始で予後が改善されるのか、ホームモニタリングは大きな可能性を秘めていると言えるだろう。Buyon氏らのグループでは、1日3回のホームモニタリングにより、2度房室ブロック発症12時間以内の超急性期にデキサメタゾンおよびIVIG治療開始で予後改善が得られるかのSTOP BLOQスタディが進行中とのことであり、結果に期待が寄せられる。

児の長期予後に関して

 児の長期予後に関しては、自己免疫性疾患やアレルギー性疾患の発症をアウトカムとした研究、および学習障害や発達障害などの精神神経発達に関して観察した報告が紹介されていた。
 SLEの母親から生まれた子ども719人に関しての観察研究では、リウマチ性疾患の発症リスクは一般人口と同等(OR0.71[95% CI: 0.11- 4.82])であるが、非リウマチ性自己免疫性疾患に関してはOR2.30(95% CI:1.06-5.03)とリスク上昇がみられた17)。またアレルギー性疾患に関しては、OR1.35(95% CI:1.13-1.61)と軽度リスク上昇するという報告18)があり、また、喘息に関して観察した研究でもOR1.46(95% CI:1.16-1.84)とリスクの上昇が報告19)されている。RAの母親から生まれた子どもにおいては、若年性特発性関節炎(HR3.30[95% CI: 2.71- 4.03])、1型糖尿病(HR 1.37[95% CI: 1.12-1.66])、喘息(HR 1.28[95% CI: 1.20-1.36])と発症リスクが上昇することなどが知られている20)

 精神神経発達に関する研究としては、SLEをもつ母親に生まれた60人の子どもにおいて、APS診断およびループスアンチコアグラント陽性が特別支援学習の利用率と関連ありとする報告21)が挙げられていた。また別の既報では、一般人口における自閉症の診断率が0.6%と比較し、SLEの母親から生まれた子どもでの自閉症診断率は1.4%であり、絶対値ではごくわずかであるが増加の可能性(OR 2.19[95% CI: 1.09-4.39])がある22)とのことであった。

 また、148例の膠原病疾患の母親、82例の慢性炎症性関節炎の母親から生まれた子どもに関するイタリアの多施設研究では、児299人中11例(3.6%)に神経発達障害があり、うち6例は学習障害であった。母体のもつ自己抗体や抗リウマチ薬と神経発達障害には関連性はみられず、絶対数としても小さいものであった23)。また、40例のSLE・APSの母親から生まれた子どもの精神神経学的検査および知能指数に関して、有意差はなかった。認知機能障害は3名(7%)、学習障害は3名(学童期の児の19%)に認めたとのことであった。学習障害を認めた児の母親は全て抗リン脂質抗体が3種とも陽性であった24)

 これらの結果はより大規模な集団で検証する必要があるものの、膠原病合併の母親から生まれた子どもに関しては小児科あるいは児童精神科を含む多職種でより長期の経過観察をしていく必要があることを示唆すると考えられる。

抗リン脂質抗体症候群の新規治療について

 抗リン脂質抗体症候群に関しては、妊娠中に低容量アスピリン及びヘパリンによる治療を行なっても、生児獲得率が70%前後25)26)と、未だ治療ニーズがあることが知られている。低容量アスピリンとヘパリンで生児獲得に至らなかった場合の治療として、妊娠初期の少量ステロイドの併用27)、I V I G28)、ヒドロキシクロロキン29)、スタチン療法30)などのデータが蓄積されつつあるが、アメリカリウマチ学会2020でも発表され注目を集めているのが、IMPACT trialの中間報告である。A P Sの診断(妊娠合併症あるいは血栓症の既往)があり、ループスアンチコアグラント陽性の妊婦に、従来治療に加えて妊娠8週までのセルトリズマブの開始が妊娠転帰に与える影響を観察した非盲検のphase II trialである。プライマリアウトカムを10週以降の胎児死亡、34週以前の胎盤機能不全あるいは重症PEによる分娩とし、既報から予測されるイベント発生率が44%で、本研究に関しては、N=29でイベント発生が7妊娠(24%)。既報では、病院退院までの児の生存率が69%に対し、本研究では、26/29(90%)であった。研究実施予定期間は来年末までとなっており、こちらも最終報告が楽しみである。

最後に

 以上、S L E妊娠転帰のリスク因子及びバイオマーカー、抗SS―A抗体陽性女性の妊娠における先天性心ブロック、膠原病合併妊娠の女性から生まれた児の長期予後、抗リン脂質抗体症候群に対する新規治療の4つのトピックに関して内容をご紹介させて頂いた。今回は日本からの参加者も増加傾向にあり、膠原病合併患者の妊娠出産に関する領域に一層の注目が集まっていることの現れと考えられた。ウェブ開催のため日本にいながらにして、同領域に関する最新の知見を得、病態への理解を深められる有意義な機会であった。

文献

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3  Jill P. Buyon1, Peter M. Izmirly2, H. Michael Belmont3, John Conklin4, Nicole Kaiden5, Jane E. Salmon6, Roberta Alexander4 and Thierry Dervieux4, 1Medicine, New York University School of Medicine, New York, NY, 2NYU Langone Health, New York, NY, 3Medicine N. Erythrocyte Bound C4d in the Presence of Adverse Pregnancy Outcome Events in Pregnant Women with Systemic Lupus Erythematosus. ACR2018 2018.
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