平成22年10月3日(日)開催

 関節リウマチ治療における薬物治療の実際

吉田整形外科・リウマチ科クリニック 
院長 吉田 昌明 先生

 関節リウマチ(RA)では中等度~高度の疼痛を伴った関節腫脹が特徴的である。その腫脹は関節滑膜の増生と関節液の貯留によるが、その状態が持続することにより関節を構成する骨や軟骨組織が破壊される。

 早期RAでは単純レントゲンにおいて関節辺縁部に骨吸収像(骨びらん)が観察される。さらに関節面に破壊がおよぶと拘縮や亜脱臼が生じ、関節機能が低下する。RAに対する薬物治療は関節破壊を抑え、ADL障害の原因となる関節の不可逆的な変化を防ぐ目的で行われる。RAの薬物治療には非ステロイド抗炎症剤(NSAID)、疾患修飾性抗リウマチ剤(DMARD)、副腎皮質ステロイド、さらに約10年前から生物学的製剤としてTNF阻害剤、その後IL-6阻害剤が使用されている。NSAIDはRAの疼痛軽減のため欠かせない治療薬である。消化器病変の発生率を下げるために選択的COX-2阻害薬が広く用いられている。DMARDはRAの自然経過を改善させる可能性があるため、RAの確実な診断後、肝・腎・造血器・消化器・肺などに合併症がないことを確認し、すみやかに開始されるべき薬剤である。

 RAの日常診療では治療内容の妥当性を検討するために、罹患関節の注意深い診察と臨床検査をたびたび行う。手・手指や足趾関節のレントゲンで関節破壊が進行する際にも、DMARDの変更を考慮すべきと考えられる。メトトレキサート(MTX)はDMARDのなかでも速効性があり、葉酸を併用することによりさらに高い有効性や耐用性が期待できる。1剤目のDMARDの効果が不十分な場合には、合併症に注意し積極的にMTXを選択することが一般的と考えられる。生物学的製剤のうちインフリキシマブ(INF)、エタネルセプト(ETN)、トシリズマブは国内の市販後調査が終了しており、その高い有効性が証明されている。またTNF阻害剤であるINFとETNは、有効症例の関節破壊を抑止する効果を有する。これら生物学的製剤が登場してから飛躍的に寛解例が増加している。RAに対する薬物治療の変遷と、MTXと生物学的製剤の安全性・有効性について報告する。


 

 関節リウマチ治療における外科的治療の実際
駒ヶ嶺リウマチ整形外科クリニック  
院長 駒ヶ嶺 正隆 先生

 関節リウマチの治療は本邦で1999年に承認された抗リウマチ剤(メトトレキサート)の使用、さらには2003年以降順次承認された生物学的製剤(インフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブ、トシリズマブ)の使用により、以前に比べ劇的な治療効果が得られ、さらに病状の進行も阻止されている例も多くなった。それに伴い今まで行われてきた手術治療にも大きな変化が生じてきている。

 関節リウマチに対する外科的治療として従来より関節滑膜切除、断裂腱の再建術、関節固定術や人工関節置換術が行われてきた。しかし先に述べた生物学的製剤の登場により、関節滑膜炎の鎮静化が可能となり、短期的には関節滑膜切除の必要が少なくなり、また、関節破壊の進行が阻止できるため、人工関節手術の先延ばしも可能となってきている。長期的には滑膜炎の鎮静のため腱断裂の予防も可能となる。今後さらなる病因の解明や薬物療法の進歩により、リウマチは治る時代に向かっている事は間違いない。一方、現在各種薬物治療で対処しきれない障害を持っている患者も少なくはなく、また、構造的寛解や機能的寛解に対する生物学的製剤治療にも限界があり、さらにいろいろな制約のため、生物学的製剤を使用できない方に外科的治療が必要となる。現在私が行っている外科的治療は、足趾の関節形成術(時に手指)や断裂腱再建術等であるが、すでに破壊された関節に対して人工関節置換術を多く行っている。

 関節リウマチに対する外科的治療は、いかに薬物治療が向上しても、荷重による関節の変形の進行や、生物学的製剤投与後の変形性関節症に対する対応など、さらには手指、足趾等の変形に対して、日常生活動作の向上のための外科的治療は当分の間必要であると思われる。また、30年以上の耐久性に目安がついた人工膝関節や関節リウマチに対するセメントレス人工膝関節についても私見を述べる。

 

関節リウマチ治療におけるリハビリテーション

三木山陽病院 
副院長 西林 保朗 先生

 関節リウマチ(RA)は、関節を包む関節包の内側の表面をおおう滑膜が炎症を起こし、増殖し、関節全体が腫れ、炎症がさらに続くことで軟骨や骨が破壊され、関節の可動域制限(拘縮)や変形が生じる。

 近年、RAの早期診断・早期治療も進展し、また、新たな治療薬の登場で炎症および炎症による疼痛は、かなりコントロールできるようになってきた。

 リウマチ患者の日常生活動作(ADL)においても、介護保険制度ADL評価での評価で自立できる人が7割程度と多くなっており、早期からの適切な抗リウマチ薬を使用開始することで身体機能も維持されていることも示されている。

 関節リウマチ治療は、薬物療法により罹患関節数を減らし、疼痛を軽減するとともに、リハビリテーションを中心にした基礎療法によって、身体機能を保持、改善することが基本である。リハビリテーションというと、理学療法(運動療法や物理療法)や作業療法のみを指すように思われがちだが、リハビリテーションの本来の意味は、『復権』、つまり社会生活を送る上での権利を取り戻すことを表している。

 すなわちリハビリは、関節リウマチの基礎療法における根幹を意味すると言っても過言ではないと考える。

 リウマチ患者においては、発症時期、症状の進み具合、年齢、家庭環境などが、個々によって異なるため、様々な要素を考慮したリハビリのプログラム化が必要となる。日本リウマチ友の会のリウマチ白書では、医師からの具体的な話や指導がないので、実際実施できていない患者さんが多い実態がある。

 大切なことは、複雑なプログラムではなく、患者さん自らが毎日意識して姿勢や筋肉を保持するためにエクササイズをすることが、身体機能を維持するためのポイントである。

そこで、運動器不安定症の人が行うべきCOME(Comprehensive One Minute Exercise;包括的1分間エクササイズ)を取り入れた関節リウマチ患者のためのポジティブ・エクササイズを紹介し、明日からのリハビリをより実践的・効果的に実施頂けるよう解説する。

 

生物学的製剤投与患者への関わりを中心に
~看護師の立場から~
岩手医科大学附属病院
  主任看護師 田中 幸子  先生

 関節リウマチ(以下RA)は身近な難病とも言われ、関節の痛みにより患者のQOLが著しく低下していた。しかし、昨今、早期診断・治療が可能となり、生物学的製剤の投与により痛みの原因となる関節破壊の進行を抑えることができ、寛解状態を得ることも可能になっている。

 当院では、平成17年からレミケード入院療法を開始し、クリニカルパスを活用し病棟と外来の情報共有や連携を図っている。同年、エンブレルの自己注射治療を導入し、看護師が外来で指導している。また、昨年度からは新たにアクテムラ、ヒュミラが導入された。これに伴い、入院による点滴投与や外来での自己注射指導が主であったが、外来化学療法室での点滴投与による日帰りの加療もできるようになり、投与方法も多様化してきた。当院は大学病院という特殊性もあり、看護師は同じ部署、特に長年外来に勤務することは少なく、RA患者に関わってきた看護師が少なかった。外来業務の煩雑化に加え、RAの新しい治療法として導入された生物学的製剤についての理解を深め、RA患者の診察介助を円滑に行い、ゆとりを持って患者指導ができるようにするための環境調整や体制づくりに取り組んだ。指導の統一や情報共有のためのツールについて紹介する。

RA患者に看護を提供するためには、患者の声に耳を傾け、患者を理解することが重要となる。患者の症状は勿論であるが、ADLの査定や生活環境、家族背景などを把握し、患者の生活習慣やニーズに合わせて治療法が選択できるように、最新の知識や情報を提供していく必要がある。

 看護師はRAの最新の知識を習得するために積極的に研修に参加し、スタッフ間で情報を共有し、患者指導を行うことでモチベーションもあがっている。さらに、リウマチケア看護師制度の発足により、RA患者の指導への意欲も高まっている。

 

関節リウマチ(RA)の薬物療法と薬学的管理

岩手医科大学附属病院 薬剤部 
主任薬剤師  浅尾太宏 先生

 関節リウマチ(RA)治療の最大目標は、非可逆的な関節破壊の進行を阻止し、生命予後を改善し、患者の身体的、精神的、社会的なQOLの向上を図ることにある。RAの治療は、①基礎療法(日常生活上の注意、患者教育など)、②リハビリテーション療法、③手術療法、④薬物療法の4本柱からなり、バランスよく包括医療を行うことが基本となる。そのため、目標の達成には、患者を中心に医師・コメディカルの連携が重要となる。

  RA治療の4本柱のなかでも、近年における薬物療法の進歩は目覚しく、いまや臨床的寛解が現実的な治療ゴールとなっている。メトトレキサート(MTX)や炎症性サイトカインを標的とする生物学的製剤などの強力な治療薬の使用、ならびにその使い方に関する情報が集積され、治療戦略も“Window of opportunity:治療の好機を逃さず治療を行うこと”や“Treat to Target:はっきりした目標を設定して、それに到達するように治療を行なうこと”の提唱など、薬物療法もより洗練されたものとなっている。さらに、本年には、MTX成人用量の増量(16mg/Week)についての公知申請が行われているほか、本邦5番目となる生物学的製剤として、T細胞を標的とする製剤(CTLA4-IgGキメラ;Abatacept:オレンシア® )が使用可能になるなど、今後さらなる進歩が期待されるところである。

 一方で、薬物療法の著しい進歩とは裏腹に、致死的副作用や各種合併症の発現、高額な治療費の負担、副作用に対する過剰な不安、多剤併用によるコンプライアンスの低下、医師と患者との間にある治療ゴールのギャップなど、新たな問題も生じている。これらの問題点を解決し治療目標を達成するためには、日々進歩する情報をup-to-dateに吸収していくことに加え、医師とコメディカルが患者個々の治療目標を共有し、多角的に患者にアプローチする必要がある。また、治療の進歩や副作用のセルフチェックなどの情報を患者・家族、一般に広く周知し、患者が安心して治療に参加できるよう啓発していくことが重要である。

 今回は、医師・コメディカルの薬物療法の相互理解の向上と適正使用の推進を目的に、関節リウマチ(RA)の薬物療法と薬学的管理のポイントを述べる。

 

 

理学療法士の立場から考えるリウマチケア

岩手医科大学附属病院 リハビリテーション部
理学療法士 佐藤 真一 先生

 関節リウマチの最近の治療は「早期診断・早期治療」に重点がおかれ、より効果的な薬剤を早期から投与することによって寛解導入が可能となってきている。しかし、治療の基本は薬物療法、リハビリテーション、手術療法、ケアの4本柱で成り立っており、多職種間で連携したトータルマネジメントが重要な疾患であると感じている。

 リハビリテーション分野に関しては、①関節可動域の維持・拡大 ②筋萎縮の予防・筋力強化③関節変形・拘縮の予防 ④姿勢の矯正・歩行機能の改善 ⑤日常生活動作(ADL)・生活の質(QOL)の改善を目的として実施されている。しかし、理学療法士・作業療法士が常勤している病院でも教育的なリハビリテーションを、定期的に長期間提供することは難しく手術後の後療法のみになっていることが多く、退院後や手術を受けていない方などがどのような運動をしているかなどの状況について把握していない現状がある。

  今回、当院リウマチ科に通院されている関節リウマチ患者に対して、リハビリテーションの実施状況やQOLなどについてアンケート調査を実施した結果、動きが悪いと感じる部位や力が弱いと感じる部位として上肢では手指・手関節、下肢では膝・足関節の訴えが多かった。しかし、多くの関節リウマチ患者は、自宅で運動をしていないなどが挙げられた。また、QOLを維持していくためにも早い段階での身体機能維持や暮らしやすい日常生活に向けたリハビリテーション指導やリハビリテーションの必要性に関する啓蒙活動が必要であると感じた。この内容を含め関節リウマチ患者に関するリハビリテーションの現状について述べる。

 

関節リウマチ患者の生活指導とホームプログラム

盛岡友愛病院 リハビリテーション科
主任作業療法士 平栗 茂 先生

 関節リウマチ(以下,RA)は、多発性の関節炎を主症状とする全身性疾患で、寛解と増悪を繰り
返しながら徐々に慢性化していく。 RA患者の多くは関節破壊に起因する四肢の機能障害を持ち
ながら、基本的には在宅での療養生活を送っていると考えられる。

 RAは進行すると、移動能力のみならず、排泄、入浴、更衣、食事などの日常生活動作、掃除・
洗濯・買い物・調理などの生活関連動作に支障を来たし、在宅生活者においては、家族を巻き込
んだQOLの低下を引き起こす。

 日本リウマチ友の会が行っている「リウマチ患者さんの実態調査」の結果から、RA患者の多くは
“診断早期よりリハビリを開始し、継続的に行うことで関節拘縮や筋力低下を遅らせたり維持でき
る。”と認識していることが分かる。そして、家で出来るリハビリや日常生活上の指導、装具・住宅
改造の指導などは、RA患者がリハビリ指導者に望んでいるにもかかわらず、「リハビリをしてい
る。」と答えている人は減少している。

 我々、作業療法士が行っているリハビリテーションサービスは、まだまだRA患者のニーズに十
分な対応が出来ていないのだと謙虚に受けとめる必要がある。

  近年、破壊された関節に対し人工関節置換術を施行する医療機関が増加したこと、早期リウマ
チや免疫異常に対する積極的な内科治療(抗リウマチ薬や生物学的製剤)が導入されたことによりRAの治療は飛躍的に変化しつつあると言われている。そしてセラピストのアプローチもこれらに伴い変化が求められていると考える。

 人工関節置換術などの外科的治療後のリハビリテーションは集中的に一定期間のリハビリを行
い、早期退院が可能になったと思われるが、リウマチ治療 4本柱の薬物療法や手術療法の目覚ましい進歩に比べ、リハビリ分野の充実度はまだ低い状況にある。

 RA患者は発病初期からリハビリを始め、関節保護法、ホームエクササイズ、スプリント作成、自
助具の指導を受け、機能障害を予防し日常生活動作を維持しながら住み慣れた地域でその人ら
しく暮らしたいと願っている。

 我々、作業療法士はリウマチ治療の4本柱の1つであるリハビリの重要性を改めて再認識すると
ともに各施設でリハビリを完結するのではなくRA患者の在宅生活の自立と一層の社会参加に応
え、急性期から維持期のどの時期においても、幅広い、きめ細かいリハビリ介入が出来るよう他
職種との積極的な連携が必要であると考える。

 今回はRAの関節保護、エネルギー節約の考え方に触れながらホームエクササイズのご紹介を
させていただき、 RA患者の在宅ケアについて皆さんと一緒に考える機会になればと思う。

 

 医師の立場から見たリウマチケア

岩手医科大学 整形外科 
安藤 貴信 先生

 関節リウマチの治療目的は、以前の治療目標であった関節の腫れや痛みが消失する臨床的寛解から、関節の変形を予防する構造的寛解、さらに日常生活動作を支障なくおくれる機能的寛解まで目指すことが可能な時代になってきている。生物学的製剤の導入は従来型の DMARDしか使えなかった時代に比べ、より多くの人たちにその効果を発揮しつつある。

 しかし、生物学的製剤はその強力な免疫抑制効果ゆえに、使用時の安全性に注意を払わなければならず、リスクが高い場合には、投与を見送らなければならないこともある。高額な医療費になるために、経済的な負担で最初から断られるケースもまれではない。そこでいままで以上に求められるのは、従来型 DMARD のより効果的で安全な使用方法である。疾患活動性が高いのにリスクが高い場合は、従来型DMARDにステロイド併用も余儀なくされるため骨折予防として骨粗鬆症予防薬を併用する。運動機能の低下に伴う廃用性障害時も同様である。

  また、関節リウマチは易感染状態であるため感染症を合併することがあり、その早期診断と治療が重要になる。多剤を併用している場合や生物学的製剤の導入時には副作用や合併症予防のため看護師や薬剤師による適切な指導や観察も大きな役割を果たす。術前術後の廃用性障害予防のリハビリテーションのみならず、日常診療時に各関節の可動域障害にも注意を払っていかなければならない。適度な運動は炎症の悪化につながらず、逆に過度の安静は関節拘縮、筋委縮、骨委縮や心肺機能の低下といった廃用による弊害を招く。

 早期からの関節運動のために医師ができることは関節の腫脹を速やかに改善させるため注入療法を行い、理学に関節可動域改善を処方することである。

 意外に見落とされているものが肩関節炎から起こる肩関節周囲炎。夜間痛を伴う可動域制限が出現したときに訴える方が多いので進行した場合が多いが、そうなる前、日常診療中に必ず関節の可動域をチェックするようにしておけば(具体的にいえば万歳をさせてみれば)簡単に診断できる。ちなみに肩関節注入によるpumpingののち仰臥位で可動域改善運動を行うことで拘縮の除去まで治すことが可能である。同様によく見かけるのが狭窄性腱鞘炎による手指の運動制限。患者は関節が腫れることは知識として知っているが関節の曲げ伸ばしには注意していないことが多いため日常診療の中で常に意識させるようにしていかなければいけない。入院中であれば患者そろってのリウマチ体操も効果的である。

  社会的なかかわりに対してはソーシャルワーカーによる医療福祉情報の提供、入院から在宅に移行する時のケアマネージャーとの連携による環境設定と在宅リハなどをお願いしている。


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