日本リウマチ財団ニュース

No.158 2020年1月号

国際学会報告

日本リウマチ財団ニュース158号に掲載しております「アメリカリウマチ学会2019 速報」のロングバージョンです。

アメリカリウマチ学会(ACR)2019速報

田巻 弘道氏
聖路加国際病院 Immuno-Rheumatology Center 医長

責任編集:岡田 正人
医療情報委員会委員
聖路加国際病院 Immuno-Rheumatology Center センター長

2019年11月8日から13日までの6日間にわたり、アメリカ合衆国ジョージア州のアトランタにてACR 2019が開催された。アトランタはACRの本部のある都市でもある。歴史を振り返ると、最初のACRミーティングは85年前にオハイオ州クリーブランドで行われ、参加者はたったの75人、11個の発表であった。それが、現在ではとても大きな学会となっており、今回も1万6千人以上が30か国以上の国から参加した国際色が豊かな学会となっている。今回はガイドラインの発表が目白押しであり、参加しなかった先生方に少しでも雰囲気が伝わるようにその内容の一部をご紹介したい。

ACRでは学会終了からこれらのプログラムを録画したものを公開しており、ACR2019自体に参加できなかった医師も12か月間で$279という値段でACR beyondというウェブサイトから購読することも可能である。また、現地に行けなくてもACR beyond liveという形で、オンラインにてリアルタイムに参加することが可能である。また、質問もアプリから送ることが可能であり、来年以降現地に行くのは難しいという方にも時差さえ気にならなければ、リアルタイムで参加する雰囲気を味わえる。

https://www.rheumatology.org/Learning-Center/ACR-Beyond

今回は、3つ疾患カテゴリーの診断やマネージメントの推奨が発表されたためそれらを共有したい。

1.変形性関節症の推奨

 アメリカリウマチ学会の変形性関節症の推奨は2012年に発表されたものが最終であった。今回、最終日の午前中に草案として出された。12月に正式に論文化される予定となっている。

 今回の推奨では強く推奨(strong recommendation)、状況により推奨(conditional recommendation)の2種類がある。強く推奨では、強いエビデンスがあり、得られる利益が害よりも明らかに勝り、ほぼ全員の患者が利益を得られるようなものである。それに対して、状況により推奨では、エビデンスの質が低く、利益と不利益の差があまりないものであり、多くの患者には当てはまるものの、その推奨が当てはまらないものもいる。今回の推奨では49の推奨がなされ、11個の強く推奨と9個のしないことを強く推奨する項目があり、これらの強い推奨ならびにしないことを強く推奨する項目は前回の2012年のガイドラインよりも増加している。

 また、薬物療法以外の治療法を、非薬物療法(non-pharmacologic therapy)と呼ばず、教育的、行動的、心理社会的、心身的、身体的アプローチ(Educational, Behavioral, Psychosocial, Mind-Body, Physical Approach)と呼ぶことになった。

 今回の推奨を(表1)に示す。限られた誌面の都合上薬物療法のみコメントするが、2012年には状況により推奨であったNSAIDs塗り薬、経口NSAIDs、ステロイドの関節内注射が2019年では強く推奨へと変更になった。またデュロキセチンは2012年時には特に推奨もなかったが、2019年では状況により推奨になり、カプサイシン塗り薬(膝)は状況により推奨しないであったのが、今回は状況により推奨へと変更された。これらに引き換え、2012年に状況により推奨とされていたヒアルロン酸の関節内注射(膝)は、状況により推奨しないへと変更になり、グルコサミンやコンドロイチンは、状況により推奨にしないであったのが強く推奨しないへと変更になっている。

表1

推奨をすることが不可能

・リドカイン塗り薬
・プレガバリン
・ガバペンチン
・SSRI
・SNRI(デュロキセチン以外)
・三環系抗うつ薬
・抗Nerve growth factor agents

ACR Atlanta 2019 6W028より

2.痛風治療の推奨の発表(表2)

 痛風のガイドラインも5年ごとに改定されることになっており、2020年ACRガイドラインとして発表される予定である。痛風のガイドラインも最終日の午前中に発表となった。ガイドラインの推奨に関しては、症例ベースで紹介され実際に推奨をどのように当てはめていくのかがわかりやすくなるように発表が工夫されていた。

 注目すべき点としては、フェブキソスタットの扱いであろう。アロプリノールとフェブキソスタットを心血管病並びに痛風がある患者さんに対して使用し、心血管イベントを評価した無作為ランダム化試験で、アロプリノール群に比べてフェブキソスタット群では心血管関連の死亡(アロプリノール群3.2%、フェブキソスタット群4.3%、ハザード比1.34 95%信頼区間 1.03-1.73や)、あらゆる原因による死亡(アロプリノール群6.4%、フェブキソスタット群7.8%、ハザード比1.22 95%信頼区間 1.10-1.47)が高かった(1)。ただ、この試験はプラセボ群がない試験であり、実際にプラセボと比較して心血管イベントが増えるかは不明である。ガイドラインではフェブキソスタットを使用中の患者で心血管病の既往がある或いは新たな心血管病が起きた際には可能であれば、その他の経口尿酸降下療法へ変更するように推奨されている。他方で、今回のACRで米国の退役軍人病院のデータを使用した研究では、アロプリノール使用者とフェブキソスタット使用者を比べてみると大きく心血管イベントに差がなかったという報告も今回のACRでなされていた(2)。

  もう一点注目すべき点としては、尿酸のマネージメントをtreat to targetで行い、さらに目標値まで到達するのにプロトコールを利用した非医師による治療の強化が勧められている点である。日本ではいわゆるmid-level provider (ナースプラクティショナーやフィジシャンアシスタント)の制度が確立していないため実現は困難かとは思われるが、効率的に目標を達成する手段としては重要である。また、今後はAIなどがこういったところに関与してくるようになるのかもしれない。

表2 痛風 ACRガイドライン2020

ACR Atlanta 2019 6W025より

3.血管炎のガイドラインの発表

 今まで、アメリカリウマチ学会からは血管炎のガイドラインは出たことがなかった。今回の学会で初めて、原発性血管炎と呼ばれるカテゴリーの主な疾患に関するがガイドラインが発表された。ANCA関連血管炎に関しては、多発血管炎性肉芽腫症(GPA)/顕微鏡的多発血管炎(MPA)と好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)のガイドラインの二つが発表され(表3)、大型血管炎としては巨細胞性動脈炎(GCA)と高安動脈炎(TAK)のガイドライン(表4)がそれぞれ発表された。また、中型血管炎である結節性多発動脈炎(PAN)のガイドライン(表5)も発表された。これらの分野では質の高いエビデンスにかける部分も多く、エキスパートの意見に基づく部分も非常に多いが、血管炎のエキスパートが日常的に行っている診療が文章化されたという点で評価に値すると思われる。ハイライトとしていくつか取り上げる。

 ANCA関連血管炎のガイドラインからは、リツキシマブの立ち位置が今まで各国で出されているガイドラインと比べると違いがあることが挙げられる。GPA/MPAで重篤な臓器病変がある際には高用量のステロイドとシクロフォスファミドが長年使われてきたが、2010年のRAVE試験の結果(3)からリツキシマブがシクロフォスファミドの代わりに使われるようになってきた。今までの様々な国のガイドラインではシクロフォスファミドとリツキシマブの立ち位置としては並列であることが多い。このACRのガイドラインではリツキシマブを優先させる表記となっている。EGPAの方でも、リツキシマブが今までは取り上げてこられなかったが、今回のACRのガイドラインでは重度の症状のあるEGPAではシクロフォスファミドとリツキシマブの立ち位置が並列に書かれている。ただ、心筋炎があるような場合はシクロフォスファミドによる治療が優先されるべきだとはされている。また、GPA/MPAの維持療法でも、伝統的に使われてきたアザチオプリンやメトトレキサートといった免疫抑制剤よりもリツキシマブを優先させるような推奨となっている。このように新しい生物学的製剤による治療の立ち位置がより優先されるようになってきているガイドラインであった。

 また、寛解導入療法時のステロイドの使用の仕方にも推奨がでた。ACR2018で発表されたPEXIVAS試験では重篤な症状のあるGPA/MPAに対しての血漿交換が効果があるかという問いとともに、標準的なステロイド減量レジメンか減量ステロイドレジメンかの比較が行われ、減量レジメンでの非劣勢が示されたとともに、1年目の感染症が減量ステロイドレジメンで有意に少なかったということが示された(4)。今後これを受けて、さらにステロイドの使用量を少なくすることで感染症の合併症を減らすような流れになっていくことが予想される。減量レジメンと標準レジメンに関してはを参照にしていただきたい。

表3

ANCA関連血管炎 ACRガイドライン
【GPA(Granulomatosis with Polyangiitis, 多発血管炎性肉芽腫症)/ MPA(Microscopic Polyangiitis、顕微鏡的多発血管炎)】


PEXIVASにおけるグルココルチコイド減量のプロトコール

ACR Atlanta 2019 Plenaryより

【EGPA (Eosiniphilic Granulomatosis with Polyangiitis, 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症)】

ACR Atlanta 2019 3S015より

 大型血管炎のガイドラインも出されている。一つ目としては、GCAの治療におけるトシリズマブの立ち位置に今までにない特徴が出ている。トシリズマブのGCAに対する本邦の保険適応上はステロイドによる治療抵抗性、再発性、或いはステロイドの副作用によりステロイドの使用が困難な場合に適応が通っている。実際、最新のEULAR推奨である2018年の大型血管炎のマネージメントのアップデートでもトシリズマブはそのような際に考慮する薬剤として推奨されている(5)。しかしながら、今回のACRのGCAのガイドラインでは、トシリズマブを初期から使用することを推奨している。確かに、トシリズマブの効果を証明し、各国での承認のもととなった臨床試験であるGiACTA試験では、トシリズマブは初期から導入されるという形式の試験デザインであり、ステロイド単剤での治療では52週の時点で寛解維持が出来るのは少数であった。また、今回のACRでも発表になっていたが、GiACTAのパート2のデータでは、トシリズマブを使用し52週時点で寛解維持が出来、その後治療がないままその後2年間経過観察された患者のうち、42%は薬物療法を再開することなく寛解が維持できていたということもこの推奨につながった要因の1つであろう(6)。もう一点EULARと大きな違いがある点は、GCA診断時における超音波の扱いであろう。ヨーロッパや日本ほどに超音波の使用が広まっていないアメリカでは実際に側頭動脈エコーを実施できる施設が少なく、今回のACRガイドラインでも側頭動脈生検を優先させるような表記となっている。これは、実際のアメリカにおけるリソースの問題からくるものであり、日本のように超音波が手軽に使える国では当てはまらないと思われる。

 高安動脈炎のガイドラインにおいては、本邦ではトシリズマブが保険承認を得た生物学的製剤となっているが、アメリカのFDAの承認を得た高安動脈炎に対する生物学的製剤は現時点では存在しない。そのような中、トシリズマブを高安動脈炎に用いたTAKT試験のプライマリーエンドポイントが惜しくも満たされなかったという影響からか(7)、実際に、TNF阻害薬の効能が質の高い研究で示されているわけではないもののACRの高安動脈炎のガイドラインではトシリズマブよりもTNF阻害薬が推奨されることとなっている。

表4

大型血管炎

巨細胞性動脈炎と高安動脈炎 ACRガイドライン2019

【巨細胞性動脈炎】
【高安動脈炎】

ACR Atlanta 2019 4M025より

表5

中型血管炎

PANのACRガイドライン2019

【PAN(結節性多発動脈炎、Polyarteritis Nodosa)】

ACR Atlanta 2019 4M025より

 以上紙面の都合上限られた目玉であった3つのガイドラインの情報のみの紹介となってしまったが、その他にも様々な発表があり、有益な議論もあり、よりよいリウマチ膠原病疾患の治療を実現するためにとても有益な学会であった。

参考文献

  1. White WB, et al. Cardiovascular Safety of Febuxostat or Allopurinol in Patients with Gout. N Engl J Med. 2018 Mar 29;378(13):1200-1210. doi: 10.1056/NEJMoa1710895. Epub 2018 Mar 12.
  2. Zembrzuska H, Gao Y, Girotra S, Lund B, Saag K, Curtis J, Vaughan-Sarrazin M, Singh N. Comparative Risk of Cardiovascular Events in US Veterans with Gout Treated with Febuxostat versus Allopurinol [abstract]. Arthritis Rheumatol. 2019; 71 (suppl 10). https://acrabstracts.org/abstract/comparative-risk-of-cardiovascular-events-in-us-veterans-with-gout-treated-with-febuxostat-versus-allopurinol
  3. Stone JH et al. Rituximab versus cyclophosphamide for ANCA-associated vasculitis. N Engl J Med 2010; 363:221-232  DOI: 10.1056/NEJMoa0909905
  4. Walsh M, Merkel PA, Jayne D. The Effects of Plasma Exchange and Reduced-Dose Glucocorticoids during Remission-Induction for Treatment of Severe ANCA-Associated Vasculitis [abstract]. Arthritis Rheumatol. 2018; 70 (suppl 10). https://acrabstracts.org/abstract/the-effects-of-plasma-exchange-and-reduced-dose-glucocorticoids-during-remission-induction-for-treatment-of-severe-anca-associated-vasculitis
  5. Hellmich B, Agueda A, Monti S, et al. 2018 Update of the EULAR recommendations for the management of large vessel vasculitis. Annals of the Rheumatic Diseases 2020;79:19-30
  6. Stone J, Bao M, Han J, Aringer M, Blockmans D, Brouwer E, Cid M, Dasgupta B, Rech J, Salvarani C, Spiera R, Unizony S. Long-Term Outcome of Tocilizumab for Patients with Giant Cell Arteritis: Results from Part 2 of a Randomized Controlled Phase 3 Trial [abstract]. Arthritis Rheumatol. 2019; 71 (suppl 10). https://acrabstracts.org/abstract/long-term-outcome-of-tocilizumab-for-patients-with-giant-cell-arteritis-results-from-part-2-of-a-randomized-controlled-phase-3-trial
  7. Nakaoka Y, Isobe M, Takei S, et al. Efficacy and safety of tocilizumab in patients with refractory Takayasu arteritis: results from a randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 3 trial in Japan (the TAKT study).Ann Rheum Dis. 2018 Mar;77(3):348-354. doi: 10.1136/annrheumdis-2017-211878.
夕闇のアトランタオリンピック公園

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