今回の学会でも多くの新しい臨床試験のデータが発表された。紙面の都合上多くは取り上げることはできないが、私の興味を引いたものを独断と偏見で選んでみた。
今後、冬場にかけて一番気になるのはCOVID-19の話であろうか。Plenary SessionのAbstract 0430は、アメリカの多施設の電子カルテからリアルタイムで情報を抜き出す研究ネットワークであるTriNETXを使って、パンデミックが始まって6ヵ月経った時点での2,300名以上の自己免疫性リウマチ疾患がある患者とない患者でCOVID-19に感染した患者を比較した試験である。年齢、性別、人種、合併症、ヘルスケア利用で補正をすると、入院、ICU入室、人工呼吸器使用、死亡などではリスク差がなく、急性腎障害、静脈血栓塞栓症ではそれぞれリスク比が1.33(95% CI: 1.05-1.68)、1.60(95% CI: 1.14-2.25)とリウマチ性疾患がある患者で有意に高かった。年齢、性別、人種のみでの補正だと、入院、ICU入室、人工呼吸器使用の項目ではリウマチ性疾患で有意にリスクが高く、合併症がこういった因子に与える影響がやはり示唆された。
Late Breaking AbstractからはL08のFAST試験であろうか。欧米でフェブキソスタットの心血管リスクの懸念があったため、イギリス、デンマーク、スウェーデンで行われたPROBE法(prospective, randomized, open-label, blinded endpoint)を用いた試験で、痛風患者においてアロプリノールで加療中で少なくとも1つの心血管リスクがある患者が対象で、尿酸値の目標6mg/dLまでアロプリノールを増量したのちに、そのままアロプリノールを継続する群とフェブキソスタットに変更する群とに分けて、主要評価項目である複合アウトカム(非致死性心筋梗塞やバイオマーカーが陽性の急性冠症候群による入院、非致死性脳卒中、心血管死)を比較する試験である。6128人がランダム化され、中央値で4年間のフォローアップで、intention to treat(ITT)による解析で複合アウトカムがフェブキソスタット群で1.72イベント/100 patient years、アロプリノール群で2.05イベント/100 patient yearsであり、ハザード比は0.85(95% CI: 0.70-1.03)で、非劣勢を示すことができた。
関節リウマチの推奨では生物学的製剤と同じタイミングにJAK阻害薬も推奨される薬剤となったが、JAK阻害薬における有害事象として帯状疱疹が挙げられる。現在、帯状疱疹の不活化ワクチンが手に入るようになり、JAK阻害剤内服中の患者さんにおいても、不活化ワクチンによる予防という事が可能かという事が一つの話題としてある。今回のACRでJAK阻害薬使用中の不活化帯状疱疹ワクチンの効果に関しての発表があった。3ヶ月以上JAK阻害薬を使用している関節リウマチ患者40名と健康なボランティアの20名に対して帯状疱疹ワクチン摂取前と摂取後4−6週間後の帯状疱疹に対する抗体を比較し、ワクチン摂取前の抗体価がOD(optical density)で1.2倍以上になっていれば反応ありと捉えると定義した試験になっている。摂取前後での抗体価の上昇は関節リウマチ群でも、健康なボランティア群でも統計学的に優位に上昇はしていたが、上記の反応基準を満たしたのは健康なボランティアで100%であったのに対して、JAK阻害薬使用患者で75%であり、統計学的に有意にJAK阻害剤使用関節リウマチ患者では反応の基準を満たすものが少なかった。この試験では実際の帯状疱疹の発症率や、また抗体価の変化のみでワクチンの有用性が決まるわけではないが、一定の割合でJAK阻害薬を使用したままのワクチン摂取でも抗体価が上昇する事がわかった。本当に帯状疱疹罹患率が下がるのか、また、帯状疱疹ワクチンの効果をより出すため、安定している患者では一定の期間JAK阻害薬を中断した方が良いのかなど、まだまだ疑問の残る分野ではあるが、今後の研究のさらなる進展が待たれる。
乾癬性関節炎ではTYK-2阻害薬であるDeucravacitinibの乾癬性関節炎に対するデータがLate breaking abstractで発表された。TYK2はインターロイキン12やインターロイキン23、Type IやIIIインターフェロンの受容体からの細胞内シグナル伝達に関わっている。2018年に New England Journal of Medicineに第2相の乾癬に対する臨床試験が発表されていたことでも覚えておられる方が多いかもしれない(N Engl J Med 2018;379:1313-21.)。その当時はまだBMS-986165という名前であった。この乾癬に対する試験では、プラセボ、3mg隔日、3mg毎日、3mg1日2回、6mg1日2回、12mg毎日が使用されたが、主要評価項目である12週の段階でのPASI75がそれぞれの薬剤で7%、9%、39%、69%、67%、75%であった。3mg毎日より多い容量ではプラセボに比較して、有意にPASI75の反応が高い割合で見られた。もう一点注目すべきところは、重篤な有害事象が各群で多くて1名(2%)にしか見られなかったことである。このようなTKY2阻害薬であるが、乾癬性関節炎に対して使用された第2相試験ではプラセボ、Deucravacitinib 6mg1日1回、Deucravacitinib 12mg1日1回の3群に投与され、主要評価項目は16週でのACR20であるが、それぞれの群で31.8%、52.9%(P=0.0134)、62.7%(P=0.0004)と実薬群ではプラセボ群よりも有意にACR20を達成した患者が多かった(図1)。ACR50、ACR70もプラセボ群/6mg群/12mg群でそれぞれ10.6%/24.3%/32.8%、1.5%/14.3%/19.4%であった。6mg群で70名12mgで67名が参加したが、これらの患者で重篤な有害事象は感染症、帯状疱疹、日和見感染、血栓症を含めて観察されなかった。有害事象の少ない有力な乾癬並びに乾癬性関節炎の治療薬として期待される薬剤である。
図1 |
 |
 |
|
血管炎ではPlenary session IでADVOCATE試験の結果が示された。ANCA関連血管炎(顕微鏡的多発血管炎並びに多発血管炎性肉芽腫症)の寛解導入で、ステロイド+リツキシマブ/シクロフォスファミドの標準療法に対して、ステロイドの代わりにアバコパン(C5a受容体阻害薬)で寛解導入が同様にできるかを評価した試験である(図2)。アバコパンは寛解(Birmingham Vasculitis Activity Scoreがゼロかつステロイド内服なし)導入率において、標準療法と比較し26週で非劣勢(アバコパン群72.3%、プラセボ群70.1%)、52週で優勢(アバコパン群65.7%、プラセボ群54.9%)を示し(表3)、有害事象でも目立ったものはなかった。興味深かったのは、再発例では52週時の寛解維持率がアバコパン群で数値的により高い割合で達成できていたこと(ステロイド群48%、アバコパン群76.5%)、PR3-ANCA陽性の患者では52週時の寛解維持率に数値的に大きな差はなさそうであったが(ステロイド群57.1%、アバコパン群59.7%)、MPO-ANCA陽性群ではアバコパン群の方が数値的に寛解維持の割合が高く見えること(ステロイド群53.2%、アバコパン群70.2%)とあり、日本人に多いMPO-ANCA陽性の患者では効果が高そうであり、また再発を起こした患者に有用性が示された。また、しクロフォスファミドが背景治療に入っている場合には、寛解維持率に大きな差がないのに対して(ステロイド群52.6%、アバコパン群55.9%)、リツキシマブで治療された方では、アバコパン群の方が52週時点での寛解維持率が数値的に高いことも(ステロイド群56.1%、アバコパン群71.0%)、シクロフォスファミドからアザチオプリンという治療の流れでは自然免疫から獲得免疫まで抑える効果が期待できるのに対して、リツキシマブは獲得免疫のみを抑えているという背景治療の働き方の機序を考えると興味深い結果である。 |

|

|
|
|