国際学会報告書

 

 
 

日本リウマチ財団ニュース171号に掲載しております「アメリカリウマチ学会2021 速報」のロングバージョンです。

 

アメリカリウマチ学会2021 


 

田巻 弘道 

聖路加国際病院 Immuno-Rheumatology Center 医長

 

 

責任編集:岡田 正人 編集員
聖路加国際病院 Immuno-Rheumatology Center センター長


2021年11月3日から9日まで、および10日のextended programを含めると8日間にわたり、ACR2021がウエブサイトで開催された。会が終わった後も、12月10日から毎週金曜日にextended programということでポスターツアーの予定も組まれており、まだまだこの原稿を書いている時点では終わっていないプログラムもある。毎年の企画であるGreat Debate、Knowledge Bowl、Curbside Consult、Thieves Marketといった企画は健在であると同時に、community hubといった特定のtopicにおいてexpertなどと意見を交わしやすい新しい企画も存在し、discussionの場やcommunicationの場をonline上にも設けようという意図が感じられた。時差のため、ライブでの参加は真夜中からの参加となったが、録画されたセッションも速やかにアップロードされ視聴できる様になっていた。
ライブで見逃した方で、まだ登録していない方も、On demandの登録が現在も可能であり、3月11日までonlineで録画されたsessionを視聴することが可能である。
https://www.rheumatology.org/Annual-Meeting/Registration

今回もいつものように筆者の独断と偏見で選んだ興味深い報告を紹介させていただく。

 

 

1.1. Updates in OA :6S421

変形性関節症(OA)は疾患の罹患率が高い疾患であるものの、長年に渡って決定的な薬物治療薬が出てきていない領域である。この領域での最新情報と銘打ったセッションを紹介する。
前半では臨床の側からOAの臨床表現系に関して議論がなされた。現在、OAと一括りにはされているものの、OAにも様々な臨床系が存在する。例えば、multi-joint(generalized)OAは複数の領域に渡りOAが存在することで定義される。ただ現時点で統一されたmulti-joint(generalized)OAの定義は存在しない。この臨床表現系では患者が感じる全般健康指標や身体機能の指標は低い。手のOAではerosive hand OA(EHOA)という臨床表現系がある。急な症状の出現、近位指節間(PIP)/遠位指節間(DIP)関節に炎症を認め、より手の機能障害や痛みが強い。また、X線上の所見から分ける方法として、”hypertrophic”と”atrophic”なパターンに分けると、”atrophic”なパターンのほうが進行のリスク因子である。関節構造の進行も様々なパターンに分けられる。安定している患者が最も多く(85%程度)、残りが早期に進行するパターン、遅れて進行するパターンに分けられるという報告もある。現時点では、包括的にOAの臨床表現系がまとめられておらず、どのような軸を用いて臨床表現系をまとめることで実際の治療介入と繋げていくことができるのかが、重要になると考えられる。また、これらの臨床表現系が、どのように”endotype”と関係あるのかがわかると、より治療介入が効率的になる可能性がある。
後半の治療のupdateでは、20年間のOAの治療標的の探索の歴史が紐解かれた。関節面に圧縮荷重(compressive load)がかかると、多くの成長因子が分泌され、軟骨細胞の修復に働くのに対して、関節面に剪断荷重(shearing load)がかかると、機械的炎症(mechanoflammation)が起き、多くの炎症性サイトカインなどが分泌され、基質の分解、痛みなどが生じてくる。genome wide association study(GAWS)が行われさまざまなOA遺伝的素因が明らかになってくる中で、圧縮荷重のかかった際に起きてくる変化の経路に関わるような遺伝子が疾患感受性遺伝子として多くみつかったのに対して、剪断荷重によって起きてくる機械的炎症に関連する経路の疾患感受性遺伝子はみつかってこなかった。このことから、OAは軟骨修復の問題が主体的であるのではないかと考えられた。そのような中、今回の演者は手のOAでALDH1A2が低発現であることが、発症リスクであることに着目した。ALDH1A2はAll Trans Retinoic Acid(ATRA)の重要な律速因子であり、重要な核内へのシグナル伝達物質である。そして、このALDH1A2を増強することで上記に出てきた機械的炎症に伴う軟骨気質の分解に関連するような因子を抑制することがわかり、PPARγ依存性であることを突き止めた。ATRAは細胞内で厳重にコントロールされており、CYP26によって分解されるが、そのCYP26をTalarazoleは抑制する。演者らはin vitro, in vivoの試験でこのTalarazoleが機械的炎症を抑える薬剤として期待が持てることを示した。
今後、現時点では決定打を書いているこの分野にも大きな変化が出てくるのではないかということを感じさせてくれるセッションであった。

 

2.Great Debate: ループス腎炎に対する治療 ベリムマブ vs ヴォクロスポリン

毎年さまざまなな演者が二つの立場に分かれて特定のトピックに関して議論をする名物セッションである。最後には視聴者が投票を行いどちらの側が良かったかを判定する。本年は、ループス腎炎に対する治療としてJohns Hopkins大学のRheumatologistであるMichelle Petri先生がベリムマブの立場に立って、Ohio State大学のNehrologistであるBrad Rovin先生がヴォクロスポリンの立場に立って議論が行われた。ヴォクロスポリンはカルシニューリン阻害薬であり、日本未承認である。

まず、Petri先生がループス腎炎に対してのベリムマブの使用に関して論じた。ベリムマブに関してはBLISS-LN試験からの結果、ヴォクロスポリンに関してはAURORA試験からのデータに基づき効果を論じたが、1年後のCRR<sup>#</sup>のプラセボ群と比較した数値の差はヴォクロスポリンの方が高いが、二つの異なる試験であり、デザインとして異なる部分も多いため直接的には比較は難しい(表1)
表1 BLISS-LNとAURORA試験の比較

 

      BLISS-LN

      AURORA

 

ベリムマブ群

プラセボ群

ヴォクロスポリン群

プラセボ群

1年でのCRR達成率

32.2%

26.9%

41%

23%

1年でのPERR達成率

47%

35%

   

2年でのCRR達成率

30%

19.7%

   

ステロイド初期量

0-3回までのメチルプレドニゾロンのパルスののち、0.5-1.9mg/kg(60mg/日)までのプレドニゾンを開始

2回メチルプレドニゾロンのパルスの後、20-25mg/日のプレドニゾンを開始

減量速度

24週までにプレドニゾンを10mg/日以下に漸減

16週までにプレドニゾンを2.5mg/日に漸減

MMFの量

3000mgまで使用可

2000mg

 

注釈:MMF;ミコフェノール酸モフェチル、

CRR;(尿タンパククレアチニン比0.5以下)かつ(推定GFRが病気悪化前の10%より悪くないあるいは90ml/min/1.73m2以上)かつ(治療失敗でない)

PERR;(尿タンパククレアチニン比0.7以下)かつ(推定GFRが病気悪化前の20%より悪くないあるいは60ml/min/1.73m2以上)かつ(治療失敗でない)

 

サブ解析の結果からClass Vの腎炎、アフリカ系アメリカ人に対する効果に関しては、ベリムマブよりヴォクロスポリンの方が良い可能性は認めつつも、ベリムマブの豊富な腎以外のSLEに対する効果、長期的な効果、臓器障害予防の観点、GFR低下予防でのデータはベリムマブの方が良いと論じた。安全面に関しては一つひとつデータを示しつつ、長期に使用する薬剤の安全面の大切さを強調した議論となった。腎障害、感染症、心血管系イベントのリスクである高血圧、悪性腫瘍、神経毒性、骨粗鬆症、薬剤相互作用、薬剤へのアドヒアランスはベリムマブに分があることを論じた。そして最後に、今後のループス腎炎の治療バラダイムに関しての提案があった(図1)

 

図1 ループス腎炎の治療のアルゴリズム

 

 

次にRovin先生からの論点が述べられた。

  1. ①ミコフェノール酸モフェチル(MMF)単剤に比べて、MMFとヴォクロスポリンのコンビネーションで使用することによって得られる効果の高さ。
  2. ②ヴォクロスポリンの効果を示したAURORA試験では、使用されたステロイドの量は、最初の2日パルスののちに、プレドニゾン20-25mg/日から開始し、16週で2.5mg/日まで減量するレジメンであり、ステロイド量を少なくできること。
  3. ③サブ解析にてどの人種でも効果がみられたこと。
  4. ④蛋白尿を減らすのが日単位で効果が出てきて早いこと。
  5. ⑤安全性が確保されていること。

という5つのポイントが挙げられていた。①に関してはAURORA試験のfragility index<sup>$</sup>は15であるのに対して、BLISS-LNは3であることを指摘し、AURORA試験の結果の強さを取り上げていた。また、④の蛋白尿の減少に関しては、カルシニューリン阻害薬の非免疫性に機序によるpodocyteの保護作用に関して言及し、これが蛋白尿を早く減らすことが可能な要因であると指摘した。また、炎症性の腎疾患では、”Time is nephron”であり、早期の治療反応性がその後の腎機能の維持に重要なデータを示し、また、podocyteを失うことで糸球体硬化が進み、40%程度失うと末期腎不全になることから、podocyteを保護し、早く蛋白尿が減少することで将来的な腎機能保護につながるメカニズムを解説していた。
その後の議論では、一つの薬剤で全てが解決するわけではなく、どちらが優れているというよりも、どの患者にどちらの薬剤が適切かということを見極めることが大切であり、どちらの薬剤にも出番があるということが述べられていた。また、データはないものの、ヴォクロスポリンかベリムマブではなく、ヴォクロスポリンとベリムマブのコンビネーション、あるいは早く蛋白尿を減らす効果がヴォクロスポリンにあることよりヴォクロスポリンから開始し、その後、ベリムマブへと変更していく治療法などが考えられることが述べられた。
最終的に、MMFに何を加えるかという投票に関して、視聴者は70%がベリムマブ、30%がヴォクロスポリンと答えてこの白熱したセッションは終わった。


#CRR: Complete response rate
$ Fragility index: 不安定性指数とも呼ばれるが、ランダム化比較試験において主要評価項目のイベントの結果を何人逆にすれば統計学的有意差がなくなるかという指標。

 
  1. 3.Consensus guideline in pulmonary Sjogren: 6S131
シェーグレン症候群の肺病変のガイドラインが出たこともあり、そのセッションが行われた。最初のスピーカーは5つのよくある臨床シナリオに基づいて解説をしていた。
まずは、①全く肺の症状がないシェーグレンの患者である。無症候の患者においては肺疾患のスクリーニングが勧められている。というのも、10-20%、文献によっては60%の患者に肺病変があると報告されている。まずベースラインでの胸部単純X線ならびに肺機能検査(スパイロメトリー、肺活量、DLCO、安静時と運動時の酸素飽和度)が推奨されている。ここで異常がなければ、毎回の診察ごとの問診、診察に再評価を行なっていくこととなっている。
次によくあるパターンの②シェーグレン症候群があり、咳の症状がある場合である。この場合には、肺機能に加えて肺のCTを行うことが勧められている。胸部単純X線では腫瘍や間質性肺炎の10-15%が見逃されてしまうことがあるからである。ただ、②の場合最も多いのは気道の乾燥症状によるもので、他に日常でよく見かけるGERD、喘息、後鼻漏なども考慮する必要がある。
③はシェーグレン症候群で間質性肺炎がある場合である。NSIP(nonspecific interstitial pneumonia)パターンが最も多いが、UIP(usual interstitial pneumonia)、LIP(lymphocytic interstitial pneumonia)、OP(organizing pneumonia)を来すこともある。治療のアルゴリズムも提唱されており、(図2) に示す。
図2 シェーグレン症候群のILDのマネージメントアルゴリズム

 

 

⇒クリックすると拡大した図(PDF)が表示されます。

 

④はシェーグレン症候群で肺に結節影のある場合である。健常人でも50%程度は何らかの肺結節影がみつかることが知られていることより、結節影をみつけた場合にはfleischner guidelineに従う。シェーグレン症候群の患者で最も気をつけなければならないのはリンパ腫である。シェーグレンでは肺の結節影や浸潤影という形でリンパ腫が出てくることがある。8mm以上のサイズの場合はPET検査が役に立つこともあるし、同時に唾液腺炎があるような場合もリンパ腫に注意が必要である。
最後に、シェーグレン症候群で肺のconsolidationがみられる場合である。やはり感染症をしっかりと考えなければならないが、器質化肺炎、リンパ腫の可能性もあり、必要であれば気管支鏡検査も考慮しなければならない。
次の演者が、シェーグレン症候群の肺の嚢胞性病変に関して述べていた。シェーグレン症候群の肺の嚢胞性病変に関してはまだまだ今後治験の蓄積が必要である領域であるが、嚢胞性病変はシェーグレン症候群において他の膠原病よりも多いことが知られており、LIPやlymphoid follicular bronchiolitisとの関係が知られている。結節影があるような場合はアミロイドーシスやリンパ腫が示唆される。嚢胞は感染を起こしたり、破裂して気胸を起こしたりすることがあるので注意が必要である。

 
  1. 4.Reproductive Health & Psoriatic Arthritis :7S420

2020年にACRのreproductive health guidelineが発表され、日常診療のガイダンスとして非常に役に立つ内容となっている。関節リウマチやSLEの患者における妊娠、出産、出産後に関して焦点が置かれて行われ聞いていたが、それ以外のリウマチ性疾患に関してはあまり多く語られることは今までなかった印象がある。今回は乾癬性関節炎の患者におけるreproductive healthのセッションがあったので紹介する。
このセッションでは、母親になりたい、父親になりたいという乾癬性関節炎を持った患者に関していかに外来でカウンセリングしていくかという事が症例ベースで述べられていた。その際に4つのステップに則って確認していく事が良いと述べられていた。その4つのステップを図にしてここに紹介する(図3)。ACRはACR reproductive health initiativeという形で様々なリソースを公開している。興味のある方はご参照いただくと良いかもしれない。
https://www.rheumatology.org/Practice-Quality/Reproductive-Health-Initiative

図3 乾癬性関節炎を持つ患者が妊娠を計画する際の4つのステップ

乾癬性関節炎を持つ女性が妊娠を計画する際の4つのステップ

 

 

⇒クリックすると拡大した図(PDF)が表示されます。

 

乾癬性関節炎を持つ男性が父親になるため計画する際の4つのステップ

 

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  1. 5.Treatment challenges in Bone Health :9T122
骨粗鬆症の治療のチャレンジということで、骨粗鬆症の治療に関してセッションがあったので紹介する。
前半は閉経前の骨密度低下のマネジメントということで、次のACR presidentでもあるSaag先生が講義をしていた。
閉経前の骨粗鬆症自体は骨密度検査だけでは診断する事が難しい。TスコアによってWHOの閉経後骨粗鬆症の定義はなされているが、閉経前の女性ではTスコアではなく、Zスコアを用いる。Zスコアは同年代の骨密度から見た標準偏差の指標であり、Zスコアが-2.0より低い場合は年齢相応より低いとなり、-2.0を超えると年齢相応よりも高いとされる。同じ骨密度でも年齢が低い方が骨折のリスクは低い。International Society for Clinical Densitometry(ISCD)は閉経前の骨粗鬆症を以下のように定義している。
●骨密度でZスコアが-2.0以下かつ骨粗鬆症の原因(例:ステロイド使用、セリアック病、副甲状腺機能亢進症、性腺機能低下症)がある
あるいは
●椎体骨折あるいは脆弱性骨折の既往
若い女性の骨粗鬆症の原因は様々である(表2)。閉経前の骨粗鬆症では原因となるものがあればそれの治療をする事が優先される。骨粗鬆症自体の治療は、骨折がある場合、保存的な加療(原因の治療)でも骨量の減少が継続するような場合、骨密度がとても低い場合(Zスコアが-3.0以下)などでは考慮される。アメリカのGIOPの推奨に関しては2017年に出たものであり、ここでは割愛するが詳細に述べられていた(https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/art.40137)。興味のある方はリンク先を確認していただければと思う。実際の薬物療法になった際に、閉経前の女性に関して、ビスホスホネートやテリパラチドは骨密度の上昇作用があるというデータはあるが、実際に骨折を防げるかどうかという点に関してはデータがない。

表2 閉経前の女性の骨粗鬆症の原因

リウマチ膠原病

消化器疾患

呼吸器疾患

   関節リウマチ

   セリアック病    嚢胞性線維症

   SLE

   吸収不良    肺気腫

遺伝疾患

   炎症性腸疾患

その他

   特発性高カルシウム尿症    乳糖不耐症    

   うつ病

   骨形成不全症

薬剤

   妊娠関連、授乳関連

   サラセミア

   プレドニゾン

   HIV

内分泌疾患

   抗痙攣薬

特発性

   エストロゲン欠乏

   GnRHアゴニスト

 

      無月経

   甲状腺ホルモン

 

      摂食障害

   デポ・プロベラ

 

      プロラクチノーマ、シーハン症候群

   抗癌剤

 

   甲状腺機能亢進症

   SSRI

 

   クッシング症候群

   PPI

 

   原発性副甲状腺機能亢進症

   HAART  

   1型糖尿病

 

 
 
後半はカルシウムとビタミンDの補充に関してUC DavisのLane医師が話していた。
骨量はピークを迎えてから、50歳ごろから減少に転じていくのだが、その減少に転じる前のピークが高ければ高いほど当然後々に骨粗鬆症を起こしにくくなる。このピークに関して90%は遺伝的に決められてしまうが、若い時にカルシウムやビタミンD摂取、運動などを心がけているとピーク値を上昇させる事ができ、その後の骨粗鬆症のリスクを低下させる事ができる。ビタミンDは適切に摂取されていると食事の中のカルシウムの30-40%を吸収できるものの、ビタミンDが不十分であるとそれが10-15%程度まで落ちてしまう。アメリカのNational Academy of Medicineが出しているカルシウムとビタミンDの摂取量に関して(表3)にまとめる。ビタミンDの補充に関しては、骨に対する影響のほかに、下肢の筋力に対する効果もある事でさらに骨折予防のために進められる。過去のデータとしては、ビタミンDの血中濃度が低いと歩行速度が遅いというデータや、ビタミンDの補充を受けていると転倒も少なくなるというデータがある。カルシウムとビタミンDの補充だけで骨折を防ぐのに十分かという話では、最近のメタアナリスシスでビタミンDとカルシウムのコンビネーション、カルシウムのみ、ビタミンDのみでも骨折予防効果は示せなかったというデータがある(JAMA. 2017 Dec 26;318(24):2466-2482. doi: 10.1001/jama.2017.19344.)。カルシウムをサプリで飲むと心血管イベントが増えるのではないかという懸念が報告された事がある(BMJ. 2008 Feb 2;336(7638):262-6. doi: 10.1136/bmj.39440.525752.)。この試験ではカルシウム群の方で心血管リスクファクターが高そうに見えることに加えて、その後のWoman Health Initiativeのコホート試験(J Womens Health (Larchmt). 2013;22(11):915-929. doi:10.1089/jwh.2013.4270)、イギリスからの試験(J Bone Miner Res. 2018 May;33(5):803-811. doi: 10.1002/jbmr.3375.)、メタアナリシス(J Bone Miner Res. 2015 Jan;30(1):165-75. doi: 10.1002/jbmr.2311.)などでは心血管イベントの上昇が見られていないため、Lane医師はカルシウムの補充による心血管リスクの上昇は懸念がないと結論づけており、食事からのカルシウム量を推定し(https://www.osteoporosis.foundation/educational-hub/topic/calcium-calculator)、カルシウムのサプリはその結果に基づき補充することを症例をもとに解説していた。
表3 National Academy of MedicineのカルシウムとビタミンDの摂取量の推奨
 

      カルシウム

      ビタミンD

  年齢と性別

 1日あたり推奨量

  (mg /日)

  上限量

 (mg /日)

 1日あたり推奨量

   (IU/日)

  上限量

  (IU/日)

1-3歳(男女)

     700

    2500

    600

    2500

4-8歳(男女)

    1000

    2500

    600

    3000

9-18歳(男女)

    1300

    3000

    600

    4000

19-50歳(男女)

    1000

    2500

    600

    4000

51-70歳(男)

    1000

    2000

    600

    4000

51-70歳(女)

    1200

    2000

    600

    4000

71歳以上(男女)

    1200

    2000

    800

    4000

 
6. 発表

a. ORAL Surveillance Study (Abstract No. 831, 958, 1940)

2021年の1番の話題の一つは、ORAL Surveillance Studyであろう。この第3b/4相オープンラベルの安全性の試験は、50歳以上で心血管リスクが一つ以上ある高疾患活動性の関節リウマチ患者が対象であり、トファシチニブ5mg(n=1,455)1日2回あるいは10mg(n=1,456)1日2回、北アメリカではアダリムマブ40mg隔週、それ以外の地域ではエタネルセプト50mg毎週の投与がされたTNF阻害薬(n=1,451)群の3群に割り付けられた。全患者はメトトレキサートを継続使用した。トファシチニブはTNF阻害薬に対する非劣勢をMajor Adverse Cardiovascular Events(MACE:心血管死あるいは非致死性心筋梗塞、非致死性の脳血管障害)と非メラノーマ皮膚癌を除く悪性腫瘍に関して示すことができなかった。両方のアウトカムに関して非劣勢マージンは1.8に設定され、MACEに関してはハザード比(HR)1.33(95%信頼区間[CI] 0.91-1.94)、悪性腫瘍に関しては1.48(95%CI: 1.04-2.09)と95%CIの上限が1.8を越えていた。Post-hoc解析では、ベースライン項目の中からリスク因子の同定が行われた。MACEに関しては喫煙(HR=2.18[95%CI :1.50-3.16])、アスピリンの使用(HR=2.11[95% CI:1.40-3.19])、65歳以上(HR=1.81[95% CI:1.27-2.59]、男性(HR=1.81[95% CI :1.25-2.61]が、悪性腫瘍に関しては65歳以上(HR=2.04[95% CI:1.49-2.78]、現在の喫煙(HR=2.61[95% CI :1.79-3.81])、過去の喫煙(HR=2.58[95% CI :1.72-3.73])が全治療群の独立したリスク因子として挙がった。血栓塞栓症に関しては、65歳以上(HR=2.00[95% CI:1.03-3.88])、男性(HR=2.18[95% CI :1.06-4.48]、BMI30以上(HR=2.97[95% CI: 1.40-6.32])、高血圧の既往(HR=2.57[95% CI:0.98-6.76])、血栓塞栓症の既往(HR=7.06[95% CI: 2.46-20.25])、経口避妊薬/ホルモン補充療法(HR=3.56[95% CI: 1.05-12.10])、抗うつ薬の使用(HR=2.94[95% CI :1.44-6.02])、ステロイドの使用(HR=3.01[95% CI :1.40-6.46])が独立したリスク因子として全治療群で同定された。
今回のこの試験の結果に関しては、いくつか注意して解釈すべき点がある。一つは50歳以上かつ心血管リスクが1つ以上ある関節リウマチ患者を対象にしており、白人が8割近くを占める集団である。アジア人は5%に満たない数である。また、プラセボ群が対照として設定されているわけではないことも留意点として大切である。今後の引き続きのデータ収集と日本からのデータも大切となってくるであろう。

b. Secukinumab for GCA(abstract no. L19)

血管炎の世界では、巨細胞性動脈炎(GCA)に対する臨床試験の結果発表が相次いでいる。EULAR2021では抗GM-CSF抗体のGCAに対する第2相試験の結果が報告されたのに次いで、ACR2021ではGCAに対するセクキヌマブの使用に関する第2相試験の結果が発表された。新規あるいは再燃したGCAに対して、セクキヌマブ300mgをローディング後4週ごとに投与する群(n=27)と、プラセボ群(n=25)を比較した試験である。両群ともにプレドニゾロンの投与が行われ26週かけて漸減していく。プライマリーアウトカムである28週までの寛解維持はセクキヌマブ群では70.1%で、プラセボ群では20.3%であった。寛解維持ができるオッズ比は9.31 (95%信頼区間3.52-26.29)であった。セクキヌマブ群での安全性では特に既知のもの以上のものはなかった。現在、第3相試験に進んでいる。
c. RTX for EGPA (abstract no. L21)

ANCA関連血管炎に対するリツキシマブの効果は確立され、現在標準治療となっている。しかしながら、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)に対してのリツキシマブの効果は二重盲検試験で評価されたことはなかった。 French Vasculitis Study Groupから、EGPAに対するリツキシマブの効果を評価した第3相試験の結果が発表された。リツキシマブ群(n=)は、2週間離して1000mgのリツキシマブを2回投与されるのに対して、比較対照群(n=)はフランスでの標準治療を受けることとなる。フランスでの標準治療はFive Factor Score(FFS)が0の場合はステロイドの単剤、FFSが1以上の場合はステロイドとシクロフォスファミドの併用で加療となる。プライマリアウトカムは180日目での寛解(Birmingham Vasculitis Activity Score[BVAS]=0)かつプレドニゾロンの用量が7.5mg/日以下である患者の割合は、リツキシマブ群では63%であり、プラセボ群では60%であり、リツキシマブの優位性は示されなかった(Relative risk 1.05 95%信頼区間 0.78-1.42)。この試験は優位性を検定する試験であり、プライマリーアウトカムは満たされなかったという結論になるものの、リツキシマブのEGPAに対する効果に関してはデータが少ないため、この様な形でデータが出に入るのはとても有意義であると思われる。

d. The ARIAA Study (Abstract No. 455)

関節リウマチのリスクが高い群においての進展予防に関する介入試験は結果が発表されたもの、また現在進行しているものなど多々存在する(表4)。The ARIAA studyはAnti-Citrullinated Peptide Antibody(ACPA)陽性かつ関節痛がある/あったかつ聴き手のMRIで滑膜炎/骨炎の所見があるものの、以前/現在に関節の腫脹がなく、ステロイドや抗リウマチ薬の投薬を受けていない患者が対象となっているランダムか二重盲検プラセボ対照試験である。介入群はアバタセプトを6カ月間投与され、主要評価項目は6ヶ月の時点でのRAMRIS scoreを用いてMRIの炎症のパラメーター(滑膜炎、腱鞘滑膜炎、骨炎)が少なくとも一の改善と決められている。主要評価項目を満たしたのはアバタセプト群で61.2%、プラセボ群で30.6%(p=0.0043)であった。6ヶ月時点で関節炎に移行したのはアバタセプト群で8.2%、プラセボ群で34.7%(p=0.0025)であった。この試験には薬剤中止後1年間の経過フォローが含まれており今後、アバタセプトが発症予防効果があるかが見られていくこととなる。

 

表4 リウマチ発症予防の臨床試験

 試 験 名

 対  象

 介  入

 観察期間

APIPPRA

関節痛+RF/CCP

Abataceptを毎週125㎎皮下注を1年間

24か月

ARIAA

関節痛

CCP

MRIで炎症

Abataceptを毎週125㎎皮下注を6か月

18か月

TREAT EARLIER

関節痛+MRI

メチルプレド二ゾロン120㎎筋注1回+MTX25㎎毎週を12か月

24か月

STAPRA

RF/CCP陽性

アトルバスタチンを40㎎毎日を36か月

48か月

StopRA

CCP陽性

ヒドロキシクロロキンを12か月

36か月

Dutch

dexamethasone

関節痛+RF/CCP

Dexamethasone100mg at baseline and

6 weeks

6か月

PRAIRI

関節痛+RF+CCP

US/MRI subclinical

synovitis or

CRP0.6mg/L

リツキシマブ1000mg1回投与

中央値29ヶ月

 

日本では適応外の薬品が含まれております。薬剤の使用に関しては添付文書を参照ください。

 

 

Nature Reviews Rheumatology (2017). doi:10.1038/nrrheum.2017.185

 

e. Vitamin Dとω3多価脂肪酸の投与による自己免疫性疾患の予防(abstract No. 0957)

VITAL試験はプラセボ群、ビタミンD 2000 IU/日投与群、ω3脂肪酸1g/日投与群、ビタミンD 2000 IU/日とω3脂肪酸1g/日を両方投与する群の4群を比較した試験であり、元々、悪性腫瘍の予防効果や心血管イベントの予防効果があるかを調べた前向きランダム化盲検比較試験である(Manson JE, et al. NEJM 2019;380:23-32 &33-44)。今回のACRでは、この試験の中で自己免疫性疾患の発症率に関して調べた結果が発表された。自己免疫性疾患に関しては患者自身が報告し、可能な場合には医療記録の詳細な調査が行われた。合計で25971名がいずれかの群に振り分けられ、中央値で5.3年フォローされた。ビタミンDの投与有無で、確認できた自己免疫性疾患の発症に関しては、HR 0.78 (95%信頼区間0.61-1.00)であったが、w3脂肪酸は投与の有無で、確認できた自己免疫性疾患の発症に関しては、HR 0.85 (95%信頼区間0.67-1.09)であった。ビタミンDの効果は3年を経過した後から変化が見られてきていた。

 

その他にも多くの興味深い発表があった。

よりよいリウマチ膠原病疾患の治療を実現するためにとても有益な学会であった。