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日本リウマチ財団ニュース177号に掲載しています「アメリカリウマチ学会(ACR)2022学会速報 」のロングバージョンです。 |
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田巻 弘道 氏 聖路加国際病院 Immuno-Rheumatology Center 医長
責任編集:岡田 正人 医療情報委員会委員
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はじめに |
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近年、血清反応陽性関節リウマチの発症機序が解明されるに従い、発症してから治療するというのではなく、予防することが可能かという議論がよく行われる。関節リウマチは遺伝的素因のある個人に環境因子が加わり、局所そして全身の自己免疫(リウマチ因子や抗CCP抗体にて測定される)の出現、潜在性関節炎(診察で関節炎がないが関節痛がある状況)、分類不能関節炎(関節炎はあるものの関節リウマチの分類基準を満たさない)、そして分類可能な関節リウマチ(関節リウマチの分類基準を満たす関節炎)へと進展していくとされる。臨床的には自己免疫が形成されている段階で、疲労、倦怠感などといった非関節症状が出現、その後、関節症状が出現するとされている。今回の議論ではDMARDsで治療すべきという立場から、アメリカ・コロラド大学のMichael Holers医師とKevin Deane医師が、治療すべきでないという立場からカナダのマニトバ大学Hani El-Gabalawy医師とウェスタンオンタリオ大学Janet Pope医師が発表を行っていた。
現時点では有効で確立された治療法はないものの、自己免疫が起きてくるところから関節炎が発症するまでのそれぞれの段階の生物学的機序を解明し、それぞれの段階に応じた介入をすることで、上記に挙げられた関節リウマチを発症させないことによるメリットを説いていた。個人のレベルでさまざまな介入ポイントがあることが予想されるが、特に今後さらに科学的にこの分野を進展させる必要がある、未来へ向けたメッセージとなっていた。
また、自己免疫は介入しようとした時点ではもう不可逆的な段階に来てしまっている可能性、抗体陰性の関節リウマチが3~4割いる中で抗体による予測は多くの潜在的な関節リウマチを発症してくる患者を検知できない可能性があることなどを挙げていた。最後には、健康的な生活習慣で35%の関節リウマチのリスクを減らせるデータを示し、また抗CCP抗体高値陽性患者の5人に4人は次の年に発症しないことを考えると、治療することはその4人を無益な治療によるリスクに晒すことを示して議論を締めくくった。
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2.ACR Guidelines for Vaccination: 12S136
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SARS-CoV-2の流行に対してワクチン接種が行われるようになり、ワクチンへの注目が高まっている。その中でもとりわけリウマチ科医の関心が高いこととして、免疫抑制剤内服者に有効にワクチン接種するための戦略が挙げられる。SARS-CoV-2以外のワクチンに関してのガイドラインがACR 2022で発表された。アメリカでのガイドラインなので実際に日本では適用上難しいこともあること、日本での実際の運用は添付文書の範囲内で行うことをお勧めすること、並びに正式にまだ出版されていないことに注意いただきたい。このことを前提とし、3つに限定して気になるポイントを取り上げる。
メトトレキサートの休薬に関しては、休薬期間が1週間でも良いのではないかという発表が今回のACRであった。(Abstract 0936)
現在、日本ではPPSV23とPCV13が手に入るが、アメリカではPCV15やPCV20が手に入るようになっており、PCV15の場合にはその後PPSV23の追加接種、PCV20の場合には単独の接種が勧められている。 ガイドラインの全容に関しては、表2を参照にしていただきたい。 |
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糖質グルココルチコイドの内服により骨粗鬆症のリスクの増大、骨折のリスクの増大があることは幅広く知られていることである。グルココルチコイドによる治療を行う際には、骨粗鬆症のリスクをしっかりと推定し、必要であれば骨折予防のために治療を行う必要がある。2017年にACRのステロイド性骨粗鬆症のガイドラインは発表されていたが、今回はそれの改訂となる。全体の情報は図1を参照していただけたらと思う。 図1 2022 ACR guideline for the prevention and treatment of GIOP ここでは40歳以上の患者での流れを簡単に説明する。
基本的には薬剤の変更の際の注意点はデノスマブを使用していた場合には、股関節の骨密度の低下のリスクを考え、PTHやPTHrP製剤への変更は避けるべきであるということ、また、糖質グルココルチコイド終了時に骨折リスクが低リスクであれば、ビスホスホネートやSERMを使用していた場合はそのまま中断できるが、デノスマブ、テリパラチド、アバロパラチド、ロモソズマブなどを使用していた場合は、薬剤の中断とともに骨密度の低下を起こしてしまうので、ビスホスホネートなどを投与後に中断をすることを考慮する。
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元々のSapporo基準は、臨床兆候が血栓症あるいは産科的合併症に限られ、また血液検査の所見も12週明けて2度陽性にならなければならないという基準であった。実際の抗リン脂質抗体症候群では、劇症型の様に2度血液検査による測定を行う以前に不幸な臨床的な転機をとってしまう様な場合や、血栓症や産科的合併症以外の臨床兆候をきたす場合もあったりする。また、抗体の中でもリスクが高いものと低いものの重み付けがなされていないことや、元々血栓症のリスクも元来の基準では考慮されていなかった。 今回の新しい分類基準では臨床の領域が6領域ある。静脈、動脈の血栓症では元々のリスクがある場合とない場合で点数の重み付けが変えられている。また、臨床兆候からの疑いのみなのか、画像や病理で確認できているのかでも重み付の差がつけられてる。さらに、抗体検査の結果もその抗体価や種類によって重み付けがなされる様になった。 臨床ドメインと検査ドメインでそれぞれ3点以上あれば分類基準を満たすということである。分類基準の当てはめ方、その項目や点数に関しては図2を参照にしていただきたい。 |
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その他にも、CPPDの分類基準案(14M158)、ACR 関節リウマチに対する統合的介入のガイドライン(理学的、心理的、心身的、栄養的介入)(13S161)(表3)、ACR/AAHKSガイドライン:人工膝関節や人工股関節にいつ踏み切るかあるいはいつ保存的加療とするか(13S145)などがあった。今後正式に論文化されるのが待ち遠しい内容である。 |
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6. さまざまな研究の発表 |
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a. Cancer Screening in Inflammatory Myopathy(Abstract 0002)
低リスク、中リスク、高リスクのリスクファクターが挙げられている。臨床表現系や抗体がリスクファクターとして取り上げられている(表4)。 高リスクファクターが2つ以上あると高リスク、中リスクファクターが2つ以上あるいは高リスクファクターが1つある場合は中リスク、それ以外を低リスクと分類する。
基本スクリーニングと強化スクリーニングの2種類があり(表5)、 高リスク群では診断時並びに発症から1、2、3年目それぞれに基本スクリーニングを、また、強化スクリーニングを診断時に行うことが勧められている。中リスク群では診断時に基本スクリーニング並びに強化スクリーニングを、低リスク群では診断時に基本スクリーニングを行うことが勧められている(図3)。 図3 特発性筋炎の悪性腫瘍スクリーニング
b. Denosumab for OA(Abstract L05)
c. 脊椎関節炎に対する生物学的製剤のコンビネーションによる治療 (abstract 1044)
d. STOP RA試験(abstract 1604)
e. ループス腎炎の寛解になるまでの時間や再燃の腎予後に与える影響(abstract 2061)
f. Pre-RAでの発症予測因子としての喀痰ないのCCP抗体 (abstract 0533) そのほかにも多くの興味深い発表があった。スペースの都合上、限られた情報のみの紹介となってしまったが、より良いリウマチ膠原病疾患の治療を実現するためにとても有益な学会であった。
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文献 |
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