国際学会報告

 

 

 

 

 

日本リウマチ財団ニュース180号に掲載しています「欧州リウマチ学会(EULAR)2023学会速報 」のロングバージョンです。


 

田巻 弘道 氏

聖路加国際病院 Immuno-Rheumatology Center 医長

 

 

責任編集:岡田 正人

医療情報委員会委員
聖路加国際病院 Immuno-Rheumatology Center


 

EULAR2023はイタリアのミラノで行われた。本格的に現地開催に戻った学会であり、多くの人が参加した会であった。会場から人が溢れてしまうようなこともあり、非常に熱気に包まれた会でもあった。Meet the expertやclinical practice skillのセッションは少人数制で早い者勝ちであったので長蛇の列ができていた。ポスターセッションも各モニター上に表示されたポスターの前に演者が立ち直接face to faceで議論が行われていた。残念ながら通路が狭く、混み合い過ぎていてなかなか目的のポスターにたどり着けないこともあったが、ポスターの演者に質問をすると、演者からEULARコインを貰え、それをジェラートと引き換えることができるという仕組みがあり、face to faceの議論を盛り上げていこうという雰囲気が伝わってきた。また、ポスターツアーは、ポスターが電子化されているということもあり、小さなブースでの集合形式でポスターの発表者の話を聞くというスタイルとなっていた。このように現地開催で盛り上がった学会であったが、今回のEULARの発表の中から、筆者が独断と偏見で興味深いと感じた内容を幾つが取り上げる。

 

    1 .EULARの推奨

 

 

今回のEULARでは数多くの推奨が発表された。列挙するだけでも下記のようになる。

 

a)EULAR/PRES recommendation for the diagnosis and management of systemic juvenile idiopathic arthritis (sJIA) and Adult-onset Still’s disease (AOSD)  (表1)

 

  • b)2023 EULAR recommendations on the management of Systemic Lupus Erythematosus (表2)
  • c)EULAR recommendations for the management of psoriatic arthritis: 2023 update (表3)
  • d)EULAR 2023 recommendation for the use of imaging in large vessel vasculitis in clinical practice: 2023 update (表4)
  • e)EULAR points to consider on the initiation of targeted therapies in patients with inflammatory arthritis and history of cancer(表5)
  • 2023 Updates of EULAR recommendations for the treatment of systemic sclerosis(表6)

 

  • 2023 EULAR recommendations on Imaging in Crystal Induced Arthropathies in clinical practice(表7)
  • EULAR points to consider for the definition of clinical and imaging features suspicious for progression from psoriasis to psoriatic arthritis(表8)

 

    EULAR recommendations for the management of fatigue in people with I-RMDs.(表9)

 

誌面の都合もあるので、全ての推奨を紹介することはできないが、WEB版では紙版よりも多く取り上げ5つを本文中で紹介する。その他の推奨に関しても表6-9にして掲載してあるのでご覧いただければと思う。

a)EULAR/PRES recommendation for the diagnosis and management of systemic juvenile idiopathic arthritis (sJIA) and Adult-onset Still’s disease (AOSD)  (表1)

まずは、全身型JIAと成人スチル病の推奨である。これらの疾患の推奨が出るのは初めてである。疾患概念、診断、治療目標、治療方法にまで踏み込んだ包括的な推奨となっている。疾患概念については、全身型JIAと成人スチル病は同一の疾患概念であり、スチル病という名前で統一することが記載されている。診断においては、典型的な症状などに加えて、IL-18やS-100蛋白の著名な上昇が診断を支持することが記載され、測定が可能であれば行うことが勧められている。T2Tに基づいての治療を掲げ、最終的な目標は薬剤なしでの寛解状態である。治療においては、臨床症状がなくCRPやESRが正常である状態を非活動性と定義し、非活動性が6か月続くことが寛解と定義された。治療の中間目標として、具体的な数値が示されており、6か月目にはグルココルチコイド中止の状態にすることが記載されている。治療薬としてはグルココルチコイドの長期使用は避けるべきことや、IL-1やIL-6の阻害薬を診断が確立次第速やかに開始することが述べられている。bDMARDの減量はグルココルチコイドなしでの寛解を3-6か月程度続いてから考慮する。合併症に関しても述べられており、マクロファージ活性化症候群の治療には、アナキンラ、シクロスポリン、インターフェロンγ阻害薬などが挙げられている。

 

  1. b)2023 EULAR recommendations on the management of Systemic Lupus Erythematosus(SLE) (表2)

EULARのSLEの推奨に関しては2019年に最終のものが出ている。2019年の推奨では包括的原則が4項目、そして実際の推奨の方は4つセクション(治療目標、SLEの治療、特定の症候、合併症)に大まかに分かれており、SLEの治療の項であれば、ヒドロキシクロロキン、グルココルチコイド、免疫抑制剤、生物学的製剤などに、特定の症候の項では皮膚、精神神経、血液、腎臓などさらに細かく分けられて推奨が作られており、全てで33個の推奨文が作られていた。2023年の推奨のupdateではカバーされている内容としては同様であるが、包括原則が5つ、推奨文が13個となっている。
包括原則はがらりと変わった。その中でもプレゼンテーションでは特に早期診断と早期治療が強調されていた。特にループス腎炎では、血尿が活動性のマーカーであり、蛋白尿は予後のマーカーであり、血清学的に活動性のある場合の血尿は特に注意が必要である。
推奨本文の方ではいくつか変わった点があるが、重要な点の一つはグルココルチコイドの維持期の許容量である。可能な限り少なくという点は共通しているものの、2019年ではプレドニゾロン7.5mg/日であったのが、2023年では5mg/日となっている。また、グルココルチコイドの減量の戦略として、ヒドロキシクロロキンや免疫抑制剤を加え減量を図っていくが、2023年の推奨ではSLEに使用することのできる生物学的製剤であるベリムマブやアニフロルマブがグルココルチコイドスエアリングのための薬剤として免疫抑制剤と共に並列で掲載されることとなった。もう一つは生物学的製剤の立ち位置が確立してきたことであろう。皮膚病変の治療の項目では、塗り薬やヒドロキシクロロキンそして必要時には全身性のグルココルチコイドとなっているが、それで十分ではなかった際のセカンドラインに、免疫抑制剤と共にアニフロルマブとベリムマブが記載されている。活動性の増殖性腎炎の治療では、高用量のグルココルチコイドとミコフェノール酸モフェチルまたはシクロホスファミドが勧められているが、治療の当初からのベリムマブを加える、あるいはミコフェノール酸モフェチルの場合ならカルシニューリン阻害剤の併用を考慮すべきであることが記載された。
また、薬剤の減量に関して述べられている点も新しい。ループス腎炎で寛解が維持されている場合に薬剤の減量を考慮することの記載がされ、まずはグルココルチコイドを減量という立場が示された。

c)EULAR recommendations for the management of psoriatic arthritis: 2023 update(表3)

2023年EULARの乾癬性関節炎の推奨も発表された。最終版は、2019年版であり、SLEと同様に本年改訂が発表された。包括原則は6つから7つへと一つ増えた。その増えた一つは表のGである。昨今のJAK阻害薬の安全性にまつわる話題の影響か、安全性の考察が大切であることが示された。また、実際の推奨の項目でも、JAK阻害薬に関しては、生物学的製剤が不十分であった場合や、生物学的製剤が不適切な場合に、リスクの評価の後に用いることが文言として加えられていた。大筋の治療に関する推奨に関して変更はないが、いくつかの点で変更があった。
●全身性のグルココルチコイドの使用の文言がなくなった
●NSAIDsの使用が以前よりもより限られた対象となった(予後不良因子のないoligoarthritis, 付着部炎、体軸性病変)
●NSAIDsが推奨されている場合でも、短期間にとどまる推奨となった
●体軸病変の生物学的製剤に関しては、唯一PsAの体軸病変にセクキヌマブのエビデンスがあるため、推奨の文言の中では一番最初にIL-17A阻害薬が記載されている

一点新しく加えられた点としては、筋骨格系以外の症状に応じての治療薬の選択がなされるべきだという項目が作られた。EULARの推奨は様々な領域の専門家集団であるGRAPPA(Group for Research and Assessment of Psoriasis and Psoriatic Arthritis)の推奨と異なり、筋骨格系の専門家であるリウマチ医が中心となった推奨であるため以前は筋骨格症状に関する推奨に重きをおいてきていたが、様々な生物学的製剤が手に入るようになり、非筋骨格系の関連する症状において、薬剤の反応性が異なることより非筋骨格系の症状に基づく薬剤推奨されるかが述べられるに至った。
最後に、実臨床で迷う点の一つである末梢関節炎に対する生物学的製剤に関してはどの薬剤が優先されるかは、データがないために示されなかった。
今後も乾癬性関節炎の薬剤選択肢は増えていくと予想され、新しいエビデンスによって変わっていくガイドラインにも注目である。

 

 

d)EULAR 2023 recommendation for the use of imaging in large vessel vasculitis in clinical practice: 2023 update(表4)

 

この推奨は前回のものは2018年に出されたものであった。大型血管炎では画像検査が診断の鍵となることが多い。以前の推奨では包括原則がなかったが、今回からは他の推奨にならい包括原則が示された。これらの内容は前回の推奨の際には、推奨分の中に含まれていたものが包括原則として取り出されたものが多い。一番大きな変更点は、以前の推奨では、頭蓋周囲の血管炎の評価として、CTやPETは診断的意味がないとされていたが、近年PETでも側頭動脈や顎動脈などの頭蓋周囲の血管の炎症を捉えることができる可能性が示されており、超音波の代替として、MRI, CT, PETが推奨されることとなった。

 

e)EULAR points to consider on the initiation of targeted therapies in patients with inflammatory arthritis and history of cancer(表5)

がんの既往がある患者に標的療法を開始する際のpoints to considerであるが、これ自体は推奨ではないが、悪性腫瘍の既往のある関節炎の患者の治療に対しての一定の指針を示してくれている。日本では2000年代の半ばから使われるようになった生物学的製剤においても、2010年代から使用されるようになったJAK阻害薬においても、日本リウマチ学会の使用の手引きや適正使用の指針においては悪性腫瘍に関してのコメントが、どの生物学的製剤やJAK阻害薬に関しても掲載されている。
今回のpoints to considerでは悪性腫瘍の既往のある患者に関しての治療の指針となりうるポイントが記載されている。全文に関しては表を参考にしていただければと思うが、幾つかのポイントをここでは取り上げる。まず、がんが落ち着いているような場合には、標的治療が適切な場合には送れなく導入することが勧められている。そして、固形癌の場合には、抗サイトカインの生物学的製剤が,リンパ腫の場合には、B細胞枯渇療法が他のものよりも好まれているとのことであった。また、がんの既往がある場合にはアバタセプトとJAK阻害剤は他の選択薬のオプションがない場合に注意深く使用することとされている。

 

残りの推奨に関しては以下の表を参照にしていただければと思う(表6-9)。

  • 2023 Updates of EULAR recommendations for the treatment of systemic sclerosis(表6)

 

  • 2023 EULAR recommendations on Imaging in Crystal Induced Arthropathies in clinical practice(表7)
  • EULAR points to consider for the definition of clinical and imaging features suspicious for progression from psoriasis to psoriatic arthritis(表8)

 

  • EULAR recommendations for the management of fatigue in people with I-RMDs.(表9)
 

 

  1. 2 .個人的に興味を惹かれた発表や研究結果

 

OP0028 関節リウマチがもともとある担癌患者が免疫チェックポイント阻害薬を使用したらどうなるか

様々な癌に対して免疫チェックポイント阻害薬が使われるようになってきている。関節リウマチ患者が癌を患った際に、免疫チェックポイント阻害薬を使用すると、元々の関節リウマチはどのようになるのか、そして、関節リウマチの再燃をきたすような患者では生存率はどうなるのかを後方視的に検証した研究である。Dana-Farber Cancer institute, Massachusetts General Hospital, Brigham and women’s hospitalの3施設で100名の患者を対象に行われた。抗PD-1抗体薬が89%で使用され、半分は肺癌の患者であり、メラノーマが20%であった。関節リウマチに関しては罹患期間は中央値で9.4年、70%程度が抗体陽性であった。また、80%は寛解あるいは低疾患活動性であった。免疫チェックポイント阻害薬が開始された時にDMARDを使用していたのは35%で、9割以上がそのまま継続された。46%の患者に関節リウマチの再燃が起き、再燃のうち67%が最初の3ヶ月に起きた。中等度から高度の再燃は11%にしか起きなかった。免疫チェックポイント阻害薬が中止されたのは13%で、再燃前の投与サイクル数の中央値は1回であり、中央値で最後の投与から7日後に再燃が起きる。また、再燃を起こしたか起こしていないかでは、患者の死亡率は統計学的な有意差がなかった。
半分程度の患者には再燃が起こるものの、再燃の多くは活動性が高くはなさそうであったことはこの問題に直面する患者にとっては福音であるかもしれない。

 

OP0072 低用量のコルヒチンが膝や股関節の人工関節置換を減らすか

Low-Dose Colchicine 2 trial (LoDoCo2)は臨床的に安定した冠動脈疾患のある患者に対して二重盲検でコルヒチン0.5mg/日群とプラセボ群を比較し、心血管イベントが防げるかを見た試験である。この試験のデータを用い、ベースラインでの変形性関節症の情報はないものの、有害事象の項目に記録された膝や股関節の手術を比較したのが本試験である。両群には2700名を超える患者が割り付けられ、ハザード比で0.69[95%信頼区間は0.51-0.95]とコルヒチンを投与されている群の方が、膝や股関節の人工関節置換術を受ける可能性が低いということが示された。変形性関節症のデータは無く、手術の理由となったのが変形性関節症かも分からないが、現代社会では人工関節置換術が変形性関節症の最も多く行われることを考えると興味深いデータである。更なる追試が待たれる。

OP 0130 APIPPRA study

ここ最近、関節リウマチの発症の高リスクの患者に対しての介入試験の結果が多く発表されている。APIPPRA試験もそのうちの一つであり、関節痛のある抗体陽性の患者に対してアバタセプトを使用する、多施設ランダム化プラセボ比較二重盲検試験である。対象となっている患者は、炎症性と思われる関節痛があり、リウマチ因子とACPA両方陽性あるいはACPAが高値養成であり、臨床的な関節炎がなく、治療歴もないものが対象となる。1対1でアバタセプト125mg皮下注射毎週投与の群とプラセボ群に割り付けられ、薬剤の投与期間は52週間、その後52週間フォローアップされる。両群とも超音波では60%程度がgray scaleで0か1、パワードップラーも70%程度がgrade 0であった。主要評価項目は、少なくとも3関節に臨床的にはっきりとした関節炎が出るあるいは2010ACR/EULARの関節リウマチの分類基準を満たすかどちらかまでの時間となっている。52週の段階ではアバタセプト群で6.4%、プラセボ群で29.1%が、104週の段階ではアバタセプト群で24.5%が、プラセボ群で36.9%が主要評価項目を満たし、統計学的に有意にアバタセプト群における主要評価項目を満たすまでの時間が長かったことが示された。さらにサブ解析では、ACPAの抗体価がとても高い場合や、IgGのACPAのみならず、IgA ACPA, Anti-carbamylated protein antibody, Anti-Acetylated peptide antibodyとリウマチ因子が陽性の場合などではより進展を防ぐことができる率が高そうであった。

 

OP 0225 JAK使用中の不活化帯状疱疹ワクチン

 

JAK阻害剤使用中に帯状疱疹が増えることはよく知られている。最近、日本でも18歳以上で使用できるようになった不活化帯状疱疹ワクチンが関節リウマチ患者でメトトレキサートとウパダシチニブを使用している患者でどれくらい効果があるのかを見た試験である。SELECT-COPARE試験のオープンラベル延長試験のsub-studyとして行われ、不活化帯状疱疹ワクチンをベースラインと12週目に接種し、主要評価項目は16週目で抗gE抗体がベースラインより4倍以上を達成できた患者の割合である。95名の患者が組み込まれ、ウパダシチニブは15mg/日、中央値で3.9年投与されており、メトトレキサートの投与量の中央値は15mg/週、プレドニゾンは中央値で5mg/日投与されていた。主要評価項目は88%の患者が満たした。第3相試験の免疫不全のない一般人口では98%がこの指標を達成していたということもあるので、若干効果が落ちる可能性があると感がられる。ベースラインでの年齢(50-<65歳:≧65歳=85%:94%)やグルココルチコイドの使用(あり:なし=87%:89%)は特に主要評価項目の達成率に影響を与えなかった。細胞性免疫に関しては、66%で反応があったと判定されているが、これも一般人口よりかは低めの数字となった。有害事象としては、重症のものが一例あり、過敏反応であった。

 

 

OP0246 ステロイド性骨粗しょう症においてロモソズマブとデノスマブの比較

 

研究者主導で始められたこの試験は24ヶ月のオープラベルランダム化比較試験で、12ヶ月以上プレドニゾン5mg以上を使用し、骨折のリスクが中等度から高度の患者を対象に行われた。主要評価項目は12ヶ月の時点での腰椎の骨密度変化である。70名が組み込まれ、63名が試験を完了した。SLEの患者が51%で、関節リウマチの患者が29%出会った。平均のプレドニゾロンの投与は6.6mgであった。47%がこの研究に入る前にビスホスホネートを使用していた。12ヶ月時点での腰椎の骨密度はロモソズマブ群で7.3%上昇、デノスマブ群で2.3%上昇し統計学的に優位にロモソズマブ群で増加した。12ヶ月の段階では、股関節に関しては特に両群では差を認めなかった。まだ途中経過の発表であり、サンプルサイズも小さいため実際の骨折というアウトカムに関してはどうかということはわからないが、新たなステロイド誘発性骨粗鬆症の選択肢として期待ができそうである。

 

 

ポスター

 

POS0618 CT画像をベースとしたスコアリングシステムで間質性肺炎に対する抗繊維化薬の反応を予測できるか

「radiomics」と名づけられた高次元画像解析法が間質性肺炎のprecision medicineへ寄与することが期待されている。「radiomics」は組織を必要とせず、画像のみから割り出される。このradiomicsは強皮症の間質性肺炎においてもその予後予測に寄与できる可能性が報告されている(European Respiratory Journal 2022;59: 2004503)。今回は、マウスモデルで、抗繊維化薬に対する反応有無を見分けるとともに、そのスコアと関連する蛋白の解析も行われ、有用な結果を示している。今後、人での検証したデータも出てくるとのことである。

 

 

以上限られたスペースの中での報告となったが、ここでは紹介しきれない様々な日々の臨床に役立つ情報が満載されていた会議であった。この記事が皆様の日々の臨床の参考になることを願っている。