平成25年度日欧リウマチ外科交換派遣医

 

8月29日~    9月6日
<オランダ>ライデン Leiden University Medical Center
7日~10日
<ドイツ>センデンホルスト  ST. Josef-Stift
11日~14日
<ドイツ>メーアブッシュ ST. Elisabeth-Hopital Meerbusch-Lank
15日~20日
<フランス>リオン/ナント   Advanced International Wrist Surgery Course
(フランス,リオン)
Clinique Jeanne d’Arc (フランス,ナント)
21日~27日
<スイス>チューリッヒ Schulthess Klinik

 

Daigo Taniguchi

京都府立医科大学 整形外科 谷口大吾

 日欧リウマチ外科交換派遣医制度の2013年度交換派遣医 (ERASS travelling fellow)として,名古屋大学整形外科,舟橋康治先生とともに,1ヵ月間,オランダ・ドイツ・フランス・スイスで見学・研修という貴重な経験をさせていただきましたので報告いたします

 

Leiden University Medical Center (オランダ,ライデン
 8月29日(金)成田空港で舟橋先生と合流し,モスクワ経由でアムステルダム空港に到着しました.深夜でしたが、大学院生のHenseler先生が空港からホテルまで案内してくれました.翌日,Nelissen教授にお会いし,優しく迎えていただきました(図1).夕方にはNelissen教授をはじめ大学院生の方々とビールを飲みながら交流しました.ライデンは運河が印象的な綺麗な街です(図2).翌日はHenseler先生をはじめ大学院の方々にアムステルダムを案内していただき,ゆっくり優雅な時を過ごしました(図3).さて,研修ですが,大学病院ですので,たくさんのスタッフ,大学院生,レジデントの先生方がおられ,和やかな雰囲気で意欲的に臨床と研究に取り組んでおられました.毎朝7時45分から手術カンファレンスが開かれ,我々も毎日参加し,用意したスライドを使って講演させていただきました.整形外科は専用の手術室を2つ有しており,毎日多くの手術が行われ,TKAや3関節固定などたくさんの手術を見学,参加させていただきました.特に印象的だったのは,Nelissen教授が腕神経叢損傷後の麻痺に対して行われた大円筋移行術です.この術式は腱板広範囲断裂にも施行されているそうで,その優れた臨床成績の研究結果を見せてもらい感銘を受けました.最終日には,リハビリの先生,看護師,クラークの方達が参加される教室主催の遠足とワインパーティーに参加させていただき,最初の訪問地を堪能いたしました.

ST. Josef-Stift ( ドイツ,センデンホルスト )

 9月7日(土)時刻通りに来ない列車にハラハラしながら,ライデンから第二の目的地へ移動しました.ミュンスター駅のホームでPlatte先生に出迎えていただき,病院まで30㎞のドライブを楽しみながら,センデンホルストに到着しました.この町は人工2万人でとても小さいのですが,ST. Josef-Stiftはドイツ北西部500km圏内の巨大なリウマチセンターで(図4),リウマチ整形外科(Dr10名,65床),リウマチ内科(Dr10名,100床),一般整形外科(Dr11名,100床),リハビリ病棟90床を有し,人工関節は年間1200件だそうです.私にとっては年に数例の難症例と思えるリウマチの手術が毎週予定されており,5つある手術室が整形外科手術だけでフル稼働していました.Bause先生,Platte先生とのドイツ料理レストランでのdinner,ミュンスターでのセグウェイツアー,そして日本文化で盛り上がったリウマチ整形外科チームの先生方との焼肉dinner(図6)などとても楽しい時間を過ごしました.後ろ髪ひかれながら,マイナス100°のコールドルームに入ってリフレッシュし,次の目的地へと移動しました.


ST. Elisabeth-Hopital Meerbusch-Lank ( ドイツ,メーアブッシュ )

 9月11日(水)この日も列車が時刻通り来ず,乗り継ぎに遅れ,予定より遅れたにもかかわらず,メーアブッシュの駅でPauly先生が笑顔で出迎えてくださりました.ライン河に少し立ち寄った後,早速,午後から手術見学をしました(図7).その夜はPauly先生とご友人とイタリア料理とオペラ鑑賞,ビアホールで一杯と夢のような始まりでした.この病院は90床ですが,6名のリウマチを専門とする整形外科の先生がおられ,膝と股関節だけでも年間250例以上の人工関節の手術がおこなわれています.手洗いをしてPauly先生のTHAを勉強させていただきましたが,小皮切にもかかわらず良好な視野で,スピーディーかつ丁寧,無駄のない見事な手術でした(図8).2日目の夜はデュッセルドルフ大学リウマチ内科のSchneider教授がごひいきにされているゴルフ場の素敵なレストランでナースの方などを含めたスタッフの皆さんとdinner,3日目の夜はPauly先生の奥さん,娘さんも一緒にケルンを案内していただき,ドイツの豚脚料理Schweinshaxeを堪能しました(図9).Pauly先生の穏やかな人柄,熟練の技に感動し,あっという間の4日間でした.

Advanced International Wrist Surgery Course (フランス,リオン)
Clinique Jeanne d’Arc (フランス,ナント)

 9月15日(日)朝6時に出発し,飛行機を乗り継いでBellemere先生と合流しAdvanced International Wrist Surgery Courseに参加するためリオンに移動しました.学会では手関節手術に関する最先端の知識が講義され,熱い討論が繰り広げられ,Bellemere先生はpyrocarbon arthroplasty(図10)の講演をなされました.ここで得た知識はClinique Jeanne d’Arcでの研修に非常に役立ちました.9月17日(火)Bellemere先生と一緒に飛行機でナントに移動しました.Clinique Jeanne d’Arcは15床の手の外科専門病院で,年間13000件の手術をされています.4つの手術室が朝8時から夜まで各々,15件以上手術が詰まっており,あまりのスピーディーさと量,そして独創的なpyrocarbon arthroplastyや形状記憶プレートなど驚きの連続でした.Bellemere先生はさらに外来も夜7時までこなしておられ,ご本人のお言葉をお借りすればまさにcompletely crazyな仕事量でした.にもかかわらず,常に優雅で穏やかな物腰でした.カンファレンスで発表する機会をいただきましたので,張り切ってプレゼンを行ってきました(図11).最終日に,Bellemere先生の奥様がナントを案内してくださり,最新観光スポットのナント島で,巨大な機械仕掛けの象と海に感動しました(図12).でも,先生と奥様の仲の良さはそれ以上の感動でした.

Schulthess Klinik(スイス,チューリッヒ)

 9月21日(土)空路で最後の研修地,チューリヒにやってきました.御高名なHerren先生が空港まで車で迎えに来てくださり,街の中心部を案内してくださいました.翌日は市内観光ツアーのプレゼントをいただきました.チューリヒの街が美しいのは言うまでもありません(図13).Schulthess Klinikはスイスで一番の整形外科病院で160床,年間手術実績8700件の整形外科病院です(図14).18年前,ドクターの数は40人程度だったそうですが,専門化を計り急速に拡大し現在,100人以上のドクターが在籍されているそうです.大手術室は一つの広大な部屋を間仕切りし8つの手術ベッドがあり,さらに別に手の外科・足の外科用の手術室があり2つの手術ベッドを有していました.手の外科と足の外科を中心に見学させていただき,DIP関節固定術,swan neck変形の矯正術,CM 関節症に対するsuspension arthroplasty,PIP人工関節,外反母趾に対するScarf法,ハンマーtoeに対する矯正術など教えていただき大変勉強になりました.そして,昨年日欧リウマチ外科交換派遣医で日本に来日されたSchindele先生のご自宅で奥様に地元家庭料理のラクレットをふるまっていただき,かわいいお子さん達とも交流できました(図15).さらに,帰国の日はSchindele先生に空港まで車で送っていただき,いただいたSchulthess Klinikのポロシャツを着て幸せな気持ちで帰国の途につきました.

 以上,交換派遣医としてヨーロッパの文化に触れ,貴重な経験をさせていただきました.いずれの施設も業務の効率が良く,スタッフの皆さんが自信に溢れておられました.ここで得た経験を今後の診療,人生に生かしたいと思います.交換留学への応募を推薦してくださった久保教授,お世話になりましたリウマチ財団各位,今回のプログラムを企画してくださったThomas Pauly先生,行く先々で暖かく迎えて下さったホストおよびスタッフの先生方に深く感謝いたします.

 

Koji Funahashi

名古屋大学医学部附属病院 整形外科  舟橋 康治

 日欧リウマチ外科交換派遣医制度の2013年度交換派遣医(ERASS traveling fellowship)として、京都府立医科大学整形外科谷口大吾先生とともに1ヶ月の欧州リウマチ外科関連施設において手術見学を中心に研修をさせていただきました。出発前は全くの未知の世界・文化に飛び込む不安は筆舌に尽くしがたいものでありましたが、谷口大吾先生の積極的な思考と行動を頼りに、実際に生じたトラブルも2人で協力して解決し無事に研修を完遂することができました。
  この度の短期留学はこの上なく有意義であり、終わってみれば数々の困難・苦労も良い経験で楽しい時間でした。その成果をこの場を借りてご報告させていただきます。

 2013年8月29日の出発の日は谷口大吾先生と成田空港で待ち合わせをして日本を旅立ちました。自宅を出発してからおよそ24時間かけてモスクワ経由でオランダのライデンまでの長時間の移動でありました。

臨床研究を科学的指向性で進める世界有数の近代的医療センター
:Leiden university medical center (LUMC)


 1575年に設立されたライデン大学はオランダ最古の大学とのことでその当時の街並みが至る所でそのまま残されており、かつて日本に伝わった蘭学という学問とその歴史の面影が随所に感じられました。

 その伝統を引き継いだまま近代化した施設が我々の訪れたLUMCであり、旺盛な向学心を持った医師たちの集まる場所で熱心に研究と討論が行われており、多くの研究成果を紹介して頂きました。我々も各々の研究内容を発表し、お互いに討論を交わし合いました。ここでお世話になったProf. Dr.Nelissenはとても手厚い歓迎をしてくださり、我々は多くの貴重な経験をさせていただきました。自施設で出版した医学書を多く提供してくださり、たまたま滞在日が誕生日であった私に、特別に興味深い本をプレゼントしてくださりました。

 手術見学では大円筋を用いた肩挙上機能の再建法や、人工膝関節置換術後の膝蓋骨障害の患者に筋腱付の膝蓋骨を同種骨移植して機能再建した症例など日本では見たことのない大手術を見学・紹介していただきました。

 せっかくの貴重な休日に我々をライデンの市内案内やアムステルダムの観光に連れて行ってくれたレジデントの先生たちには感謝の気持ちでいっぱいです。

 

リウマチ外科に特化したスペシャリストのいる病院:St. Josef-Stift Sendenhorst

9月7日にはオランダからドイツへの移動。St.Josef-StiftのスタッフであるDr.Platteがミュンスター駅まで迎えに来てくださりました。約20㎞離れた病院まで自家用車で送迎していただき、100年以上前に設立した歴史のある病院を案内していただきました。

 ドイツの北西部を担うリウマチセンターとのことで整形外科とリウマトロジーに特化した病院で遠くは500㎞も離れた地域から手術目的の紹介患者がやってくるとのことで、人口約13000人の町で年間1500件を超えるリウマチ患者の手術が行われておりました(ちなみに脊椎が約800件、スポーツ整形が1500件、トラウマトロジーが1700件の手術を別に行っているようでした)。我々が滞在した2日の間に病院全体で約40件の手術が行われていました。ここの施設ではリウマチ外科のスタッフはそれぞれが各関節を専門で分割はせず、関節リウマチ患者の人工股関節や膝関節、手指・足趾の形成術など部位を問わずあらゆる手術を行う、我々の施設と同様のスタイルで手術が行われていました。

 スタッフの人数は私の施設の半分程度にもかかわらず何倍もの手術が施行されており、整形外科とリウマチ科に特化した病院を作ろうというCEOの方針をそのまま体現した病院の機動力にはただ驚くばかりでありました。その結果、保険会社が約16万人を対象に行ったアンケートで“satisfaction with ‘their’ hospital”という基準を満たしたドイツの全病院中で3番目の病院であると、満足度の高い病院と患者からの高い評価を得ておりました。

 そのように多忙を極める中、我々をミュンスターの観光に連れて行ってくれたDr.Platteやアジアの料理にそろそろ恋しくなっていた我々を韓国料理屋(焼肉)で歓迎してくれたスタッフの皆様の“おもてなし”はこの上なく心のこもったものでありました。

 

リウマチ外科の達人のいる病院:St. Elisabeth-Krankenhaus,Meerbusch

 9月11日に次の施設に向かうべくドイツ内を列車で移動しました。予定の電車が大幅に遅れ、乗り継ぎができずに目的地への到着が大幅に遅れたにも関わらず、Dr Paulyは笑顔で待っていてくださいました。

 Dr.Paulyは自家用車で近くを流れるライン川まで我々を連れて行ってくださり、ドイツの雄大な自然を紹介してくれました。その後、St. Elisabeth-Krankenhausに到着し、荷物を病院内の宿舎に入れてさっそく手術室へ案内してくださいました。

 「ここは100床くらいの病院で大きくないから、人工関節も年間250件くらいしかないんだよ。」とのこと。この病院も地域のリウマチセンターであり、周辺地域から患者が集まり、効率的に手術が行われている印象でありました。Dr Paulyは「私はMISが嫌いでね、必要な分だけ切開するのがいいと思っている。」とおっしゃっていましたが、皮膚切開は8㎝程度と十分に小さく、長い年月で培われたテクニックと熟練したスタッフとのチームワークで行われる流れるような手術はそのものが患者に対して最少侵襲であると感じました。

 Dr PaulyはOffの時間にデュッセルドルフへオペラに連れて行ってくれたり、彼の家族と一緒にケルン観光に連れて行ってくれたり公私ともに格別な計らいをしてくださいました。

 病院の立地は非常にのどかなところで、病院の敷地内に野ウサギがいるのが非常に印象的でありました。

 

Advanced International Wrist Meeting

9月15日にはドイツを後にしフランスのリヨンに移動しました。この週の前半は次にお世話になる施設のDr.Bellemereが発表をされるLyonで開催された学会に出席しました。舟状骨骨折、CM関節症、手関節鏡など手関節に焦点を絞った学会で、2日間のスケジュールで濃密な勉強をすることができました。Dr.Bellemereは自ら開発に携わったPylocarbonによる関節形成術の報告をし、後日その手術を披露してくださいました。

 

専門特化した手の外科病院:Clinique Jeanne d’Arc

 9月17日にリヨンからナントに移動し、翌18日、病院へはDr.Bellemereが直々に病院まで日本製の自家用車で連れて行ってくださりました。Clinique Jeanne d’Arcは手の外科専門病院で年間13000件超の手術実績があり、同地域にある大学病院の整形外科には手の外科は存在しないとのことでありました。

Clinique Jeanne d’Arc は15床の病院で4つの手術室、5人の手の外科医と2人のレジデントで毎日のように30~40件の上肢の手術を行っておりました。効率的な手術室の運用のために麻酔専用の部屋で局所麻酔・伝達麻酔を行い、その後手術室へ移動、手術が終わると回復室へ、状態が落ち着くと帰宅という円滑な流れが完成されていました。

 手術は当日やってくるような(上肢の)外傷(これが約3分の1を占めると言っておりました)から、手指の人工関節、舟状骨偽関節に対する血管付骨移植、TFCC損傷に対する手関節鏡などバラエティーにとんだ手術をたくさん見学させていただきました。PylocarbonによるTM関節とSTT関節のBurger arthroplastyは名前とテクニックとともに興味深いものでありました。

 訪問初日、Dr.Bellemereは午前中に5件の手術、午後から40人近い外来患者を19時近くまでこなし、その後に日常の症例検討会が行われ、そのあとには我々が持参した手術症例を提示しディスカッションを行いました。終わったのが22時、それから歓迎会と称して食事に連れて行っていただきました。週のなか日(水曜日)にもかかわらず多くの先生に参加していただいて楽しい時間を過ごすことができました。

 

整形外科のすべてがそこにあった病院;Schulthess Klinik

9月22日、最後の週は、Zurichへ移動しました。度々、講演で来日される高名なDr.Herrenが自ら自家用車で迎えに来てくださりました。ERASSのフェローシップでこの施設を見学されたことのある先生は口を揃えて「この病院はすごい」と言っておられましたが、全部で10室ある手術室で朝から1日中手術が行われ、毎日30件以上の脊椎、各所の関節鏡、人工関節などあらゆる整形外科手術が行われていました(2012年の手術実績は8712件とのことでした)。メインの部屋は大きな室内に4台のベッドが配置されており、1室で隣り合わせて人工膝関節と人工股関節が施行されたりして、日本では決して見られない光景は衝撃的でありました。

Dr.Herrenは手の外科のスペシャリストであり、RAによる手指変形の再建(スワンネックに対する手術は感動的ですらありました)や手根管、自施設で開発されたPIP関節に対する人工関節など様々な手の外科手術を手洗いして見学させていただきました。2012年にERASS fellowshipで来日されたDr.Schindelも劣らぬ手術手技を披露してくださいました。並行して行われていた足部の手術も足の外科医であるDr.RutishauseにScarf+Akinによる外反母趾手術を中心に様々な手術を見学させていただきました。

Dr.Schindelは我々を自宅に招待してくださり、スイス郷土料理である“Raclette”を自宅のワインセラーより選んだ赤ワインとともに振舞ってくださいました。1年前に訪れた日本の思い出話(東京での和食に出てきた活造りや二次会のカラオケなど)を当時撮影した写真と共に紹介してくださいました。

 帰国前日の土曜日にはAlpsへのShort Tripも手配してくださり、若干天候が心配されたもののEngelbergのTitlisの山頂付近では(リフトとロープウェーで3000mまで到達)晴れわたった絶景を拝むことができました。帰国当日はDr.Schindelが空港まで送ってくださり、数々の親切に対して心から感謝を述べて、惜しみながらも別れを告げました。

 とりとめのない話となってしまいましたが、日本では経験できない貴重な時間を過ごさせていただき、振り返ってみるとあっという間の1か月間でした。忘れられない楽しい思い出であると同時に、大変有益な体験でありました。このフェローシップを計画してくださったERASSの関係者の皆様、本年度の日欧リウマチ外科交換派遣医に選んでいただいたリウマチ財団の関係者の皆様、1か月も臨床現場の不在をカバーしてくださった名古屋大学整形外科リウマチグループの皆様、最後に私一人では解決しなかったであろう数々の困難を助けてくれた谷口大吾先生にこの場を借りて改めて深謝いたします。