平成27年度日欧リウマチ外科交換派遣医

 

8月27日~    9月4日
<オランダ>ライデン Leiden University Medical Center
5日~8日
<ドイツ>センデンホルスト  ST. Josef-Stift hospital
9日~11日
<ドイツ>メーアブッシュ ST. Elisabeth-Hopital Meerbusch-Lank
12日~18日
<フランス>ナント   Clinique Jeanne d’Arc
19日~26日
<スイス>チューリッヒ Schulthess Klinik

 

Kosuke Ebina

大阪大学 整形外科 蛯名耕介

 

 

私は2015年度の日欧リウマチ外科交換派遣医 (ERASS travelling fellow)として、九州医療センターの櫻庭康司先生とともに1か月間、オランダ・ドイツ・フランス・スイスの4か国5施設を訪問し、貴重な体験をさせて頂きましたので御報告申し上げます

 

1) Leiden University Medical Center (オランダ・ライデン)

8月27日(木)に関西空港で櫻庭先生と合流し、韓国の仁川空港経由でオランダのスキポール空港に到着しました。大学院生のBus先生が事前に連絡を下さり、空港まで迎えに来て頂きました。翌日鼻腔と咽頭のMRSA検査を受けた後(ライデン大学はMRSAに対して非常に厳格な規律があります)、病院構内や研究施設を案内して頂きました。ライデン大学ではERASS のPresidentであるNelissen教授の御専門である肩関節疾患をはじめ、骨軟部腫瘍・足部疾患等の手術が多く、大学病院ですが外傷も積極的に受け入れていました。毎朝7:45からのカンファレンスで手術経過・手術予定・病棟の状況等が報告され、全員で情報を共有しようとする家族的な雰囲気が印象的でした。我々も日本の整形外科やリウマチ外科の現状についてのプレゼンを行い、医療制度・手術術式・医師のライフスタイルまで幅広い意見交換を行い、大いに盛り上がりました。ライデン大学には20年以上に渡る長い人工関節の動態解析の歴史があり、現在も様々な機種の臨床試験を行っているとのことです。一方でオランダでは5年前より、10年間の機種生存率が95%以上の人工関節しか使用できなくなり、今後も臨床成績の悪い人工関節は使用不可となるそうです。これには“成績の良い人工関節をなぜ変える必要があるのか?患者を研究によって危険にさらすべきではない”との明確な意図があるとのことでした。週末にはBus先生らがアムステルダム市内をサイクリングをしながら案内して下さり、心から異国の休日を満喫することができました。またNelissen教授が大変御多忙な時間の合間を縫って、ライデン市内の伝統的なレストランでの会食を催して下さり、大いに盛り上がりました。皆様の心からの温かいおもてなしに深く御礼を申し上げ、最初の訪問地を後にしました。

 

 

 

 

2) ST. Josef-Stift Hospital(ドイツ・センデンホルスト)

 9月5日(土)にライデン駅より電車でドルトムント近郊のミュンスター駅まで移動しました。以前にこの交換留学プログラムで日本を訪問されたこともあるPlatte先生が駅まで迎えに来て下さり、その後約30km離れたのどかな田園風景の広がるセンデンホルストにありますST. Josef-Stift Hospitalまでご案内頂きました。翌日にはRokahr先生の御自宅にお招き頂き、手料理での暖かい歓迎をして頂いた後にミュンスター市内を案内して頂きました。この病院はリウマチ外科・整形外科に特化した病院で、10名のリウマチ外科スタッフが年間2000例以上の人工関節置換術を実施していました。ドイツには約11か所のリウマチ外科専門病院があるそうですが、この病院は郊外にあるにも関わらずその医療レベルの高さから、常に上位1-2番目の人気であるとのことでした。RA患者では常に感染や人工関節の緩みによる再置換を念頭に置き、肩関節表面置換術やshort stem typeの人工股関節置換術などの可及的骨温存手術が行われていた事が印象的でした。チーフであるBause先生やPlatte先生の鮮やかな手術手技を拝見させて頂いた後に、夜はミュンスター中心部のレストランやバーでスタッフの先生方と笑いの絶えない楽しい時間を過ごさせて頂きました。

 

 


 

3) ST. Elisabeth-Hopital Meerbusch-Lank (ドイツ・メーアブッシュ)

9月9日(水)に第3の目的地であるデュッセルドルフ駅まで電車で移動しました。ここでもホストであるPauly先生が駅までお迎えに来て下さり、デュッセルドルフ市内(ドイツで最多の日本人が居住)や有名なライン川周辺の美しい景色をご案内して下さいました。ST. Elisabethはリウマチ外科とリウマチ内科のみに特化した病院で、6名のリウマチ外科医が年間800例以上の人工関節置換術を実施し、その他に足の外科と脊椎外科の専門医が在籍していました。Pauly先生の小切開での丁寧かつスピーディな人工股関節置換術や、芸術的な足の外科の手術を拝見することができました。初日はPauly先生と奥様と共にデュッセルドルフの伝統料理店を訪れ、日独の医療事情からお互いのプライベートまで話題の尽きない楽しい夕食をご一緒させて頂きました。また後日スタッフのLorenzo先生にご案内頂いたデュッセルドルフ市内とライン川の夜景は感動的な美しさでした。

 

 

4) Clinique Jeanne d’Arc (フランス・ナント)

9月12日(土)にデュッセルドルフ空港からパリのシャルルドゴール空港を経由してフランスの西部に位置しますナント空港に到着しました。この病院はナントで唯一の手の外科専門の私立病院で、6名のスタッフがそれぞれ一日10-15例(年間1500-2000例)もの手術を土日も行っているそうです。そのためシステムは非常に合理化されており、患者待機室で麻酔科医が神経ブロックを行い、順次患者の入れ替えを行っていました。手術の内容はRA手関節形成術・手関節鏡によるTFCC修復術・pyrocarbonという特殊な炭素素材を用いた関節形成術・独自に開発された手指PIP人工関節置換術・骨折後の手関節形成術など非常に多岐に渡り、手の外科全般について非常に多くの事を学ぶことができました。私は大阪大学手の外科グループの村瀬准教授が開発されました、骨折後の変形癒合に対する三次元解析を用いた矯正骨切り術についてプレゼンさせて頂きました所、大変興味を持って頂けました。ホストであるBellemere先生の温かいお人柄と共に、御自宅での奥様との会食やナントの伝統的郷土料理店でのスタッフの先生方との楽しい夕食など、どれも忘れることのできない出来事ばかりでした。

 

 

 

5) Schulthess Klinik(スイス・チューリッヒ)

9月12日(土)にナント空港からパリのシャルルドゴール空港を経由してスイスのチューリッヒ空港に到着しました。日本でも御高名なHerren先生が空港まで迎えに来て下さりました。Schulthess Klinikはスイス最大、ヨーロッパでも有数の整形外科専門病院で、整形外科医師数100名以上、年間手術件数8700例以上という日本ではおそらく類を見ない規模の病院です。手術室は2階に分かれており、手の外科・足の外科・関節鏡・人工関節・脊椎外科等あらゆる整形外科手術が行われていました。Herren先生の開発されました手指PIP人工関節置換術や、重度の手指swan-neck変形に対する長掌筋腱によるPIP関節形成術など大変興味深い手術を多数拝見することができました。また休日にはチューリッヒの市内の観光バスやアルプスの標高3300mのTitlis山へのツアーを御手配頂き、スイスの美しい街並みや景色を堪能した後、今回訪問させて頂いた国々やお世話になった先生方を回想しながら帰国の途に着きました。

 

頻回の移動や体調の変化に戸惑いながらも、二人で助け合いながら大きなトラブルもなく無事研修を終えることができました。留学中大変お世話になりました櫻庭康司先生、留学前に多くのアドバイスを頂きました名古屋大学の舟橋康治先生、京都府立医科大学の谷口大吾先生、大阪大学の平尾眞先生、並びにプレゼン用の資料をご提供頂きました東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センターの桃原茂樹先生、新潟県立リウマチセンターの石川肇先生、国立病院機構大阪南医療センターの橋本淳先生、本交換留学派遣制度の継続に御尽力頂きました大阪警察病院院長の越智隆弘先生、留守中に私の仕事をカバーして頂きました大阪大学整形外科の先生方、今回私を選出して頂きました日本リウマチ財団の先生方、また何よりも心からの温かいおもてなしを頂きました訪問施設の先生方に心より感謝申し上げます。

 


 

Koji Sakuraba

九州医療センター 整形外科・リウマチ科 櫻庭 康司

 

この度, 平成27年度日欧リウマチ外科交換派遣医制度に参加し, 大阪大学整形外科蛯名耕介先生とともに約1か月間かけて4か国(オランダ,ドイツ,フランス,スイス)のリウマチ関節外科関連施設で見学・研修をさせていただきました.同行した蛯名先生に様々な場面で助けていただきながら,大変有意義な研修を終えることができましたので,ここに御報告させていただきます.

 

 

Leiden University Medical Center (LUMC): Leiden, Netherland


関西国際空港で蛯名先生と合流し,仁川経由でスキポール空港へ到着しました.大学院生のMichael先生が出迎えてくれ,空港からホテルまで案内してくれました.Michael先生をはじめ多くの大学院の先生方が,休日にはアムステルダムを案内してくれたり,最終日にはお土産を用意してくれたり,とても温かくもてなしてくれました.また,Nilessen先生は多忙にも関わらず,細かい研修スケジュール調整や歓迎会までしてくださいました.先生方のおかげで充実した1週間が過ごせました.

Leidenは古い町並みと運河が整備されている美しい街でした.1575年に設立されたLUMCも古い病院施設や解剖博物館など貴重な資料を豊富に保管しており,街同様に歴史を肌で感じる病院でした.また,バイオメカニクスの研究が盛んで,肩の動態解析システムや長年行われているmodel-based RSAなどを紹介していただき感銘を受けました.診療では,毎朝のカンファレンスをはじめ放射線科医や病理医,感染症医との合同カンファレンスが数多く行われており,治療について頻回に議論できる環境が整備されていました.外来診療では股関節・足の外科の専門外来を見学する機会がありましたが,日本とは違う診療スタイルに新鮮な印象を受けました.ただ,治療に対する考え方が日本と類似しており親近感を感じました.手術は,腫瘍センターでもあることから腫瘍が多く,その他には足部の腱移行や三関節固定,肩の大胸筋移行などを見学しました.足部や肩の手術も日本ではなかなか見ることのできない手術内容で大変勉強になったのですが,特に興味深かったのは脛骨骨巨細胞腫再発に対する手術でした.関節軟骨直下まで腫瘍が浸潤していましたが,intraoperative CTとnavigationを用い骨折する事なく正確に腫瘍切除を行っていました.

 

 
     
 
     
 

 

St. Joseff-Stift : Sendenhorst, Germany

 LeidenからMünsterまで列車で移動,Platte先生が駅で出迎えてくれました.病院内の宿泊施設に送っていただいた後,病院を案内してくださり夕食も戴きました.さらに,Platte先生は研修スケジュール調整や最終日の送別会までしてくださり,厚遇してもらいました.また,週末にはRokahr先生に自宅の昼食へ招いていただきました.午後には自宅周囲やMünster市街を案内してくださり,夜にはBause先生とPlatte先生も合流してMünsterの歴史のあるレストランで歓迎会をしてくれました.

Sendenhorstは教会を中心とした自然に囲まれた静かな街でした.病院はその教会に併設されており,昨年125周年を迎えるなどとても長い歴史も持っています.整形外科,脊椎外科とリウマチ科(内科・外科)に特化した病院であり,手術症例は数・種類共に豊富で,リウマチ外科だけでも年間1600例ほど行われていました.訪問した時はTHA, TKA をはじめ,上腕骨頭の表面置換,手の外科(desis, trapeziectomy, etc…)などを見学しました.特に感銘を受けたのは,特定の関節の専門に分かれず,一人の医師が関節リウマチ患者の全ての関節を手術しており,リウマチ外科の理想的な形を体現しているところです.訪れた際もBause先生がtrapeziectomyとTHAを執刀されていました.ただ,Bause先生がよく行っているというShort stem THAを見学できなかったのは残念でした.

 
 
     
 
     


 

St.Elisabeth-hospital: Meerbush, Germany

 MünsterからDüsseldorfまで再び列車で移動,駅でPauly先生が出迎えてくれました.同日,奥様と共に伝統的なドイツ料理レストランで夕食をご馳走していただき,とても楽しい時間を過ごしました.また,翌日にはLorenz先生がDüsseldorfを案内してくれ,夕食まで戴きました.両先生方は施設案内やスケジュール調整などもしてくださり,大変お世話になりました.

病院は市街地より少し離れた閑静な住宅地に建てられており,整形外科,リウマチ内科を専門としています.主にTHA, TKA, 足の手術を行っていましたが,ここでも専門に分かれずに全ての医師が全ての関節の手術を行っていました.特に印象深かったのがPauly先生のTHAでした.後方アプローチで最少侵襲手術を行っており,一つ一つの操作を非常に丁寧にされていました.無理に急いで手術時間を短縮するのではなく,確実・正確で患者に負担の少ない手術を行うことを信条にしていると話されており,日本人の心情にかなり近いと感じました.

 
     
 
     
 

 

Clinique de la main Janne-D’arc: Nantes, France

 Düsseldorfから飛行機に乗りParis経由でNantesに到着しました.Parisでのトランジットの時間がかなりタイトであり,何とか乗り継げたもののロストバゲージにあってしまいました.幸い翌日にはホテルまで届き,事なきを得ました.Nantesは砂糖貿易で栄えた町ということで所々に目を見張る建物が建っていました.またLes Machines de L’ileが世界的に有名であり,週末には蛯名先生と共に訪れ,機械式の象が動く姿を鑑賞しました.

Janne-D’arcクリニックは手に特化した専門病院であり,フランス全土はもちろん国外からも患者が集まっていました.一日当たり30~40例程度,休日も20例程度手術が行われています.疾患も多彩でしたが,何より驚いたのが一人の医師が年間2000例弱執刀しており,病院としては年間10000例以上と膨大な手術件数を誇っていることです.手術スケジュールを円滑に進めるため,広い麻酔室で麻酔科医があらかじめブロックを行っており,手術が終わるとすぐに器械・患者を入れ替えるなど徹底的に合理化されていました.スタッフの先生が「手術だけに専念できるのですごく働きやすい」と話されていたのが印象的でした.さらに,Bellemere先生が開発されたpylocarbonを用いた手関節形成や手根骨置換,形状記憶合金を用いたIP関節固定術など独創的な手術は非常に興味深かったです.Bellemere先生はとても温厚で教育的な先生であり,ミーティングでの手関節形成やPIP関節置換のレクチャーは大変勉強になりました.また,自宅のディナーに招待してくださっただけでなく、スタッフの先生方と共に街中心の歴史あるレストランで食事会も催してくれました.いずれも手術やミーティングを行った後で,夜の遅い時間だったにも関わらず催していただいたので大変感謝しています.

 
     
 
   
 

 

 

Schulthess klinik: Zurich, Swissland

 再びNantes空港からParis経由でZurich空港へ到着.Herren先生が空港まで出迎えてくれ,ホテルまで送迎してくれました.また,Herren先生をはじめSchindele先生とfellowの先生方が,伝統のあるスイスレストランで食事会を開いてくださり,非常に楽しい時間を過ごすことができました.さらに週末には市内観光ツアーバス,最終日にはヨーロッパ最高峰のTitlis山へのツアーまでも用意してくださりスイスを十二分に堪能することができました.

Zurichは湖に面した美しい街で,特に湖畔での散歩や休憩はとても気持ちがよく,贅沢な休日を過ごせます.病院はZurich市内の高台にあり,スイス随一の整形外科専門病院です.研修は主に手術見学でしたが,初日の午後は手の外来を見学しました.Herren先生は終始穏やかで,診察や他の先生からのコンサルトにも常に丁寧に対応されていました.手術室は1階に手と足の手術室があり、一つの部屋に仕切りをして並列で手術をしていました.3階にも同様の作りをした手術室が複数あり,最大で4例並列で手術できる部屋もありました.同じ部屋でTHA, TKA,脊椎の固定,reverse TSAが行われている光景は圧巻でした.毎日30-40例ものバラエティーに富んだ手術が行われていましたが,今回は主に手(swan neck変形の矯正やPIP関節置換)や足(high archに対する踵骨骨切りやscarf法, Akin法)を見学しました.特にHerren先生が開発されたCapFlex-PIPによるPIP関節置換術は,掌側アプローチということもあり大変勉強になりました.

 
     
 
     
 

以上,交換派遣医としてヨーロッパの5つの病院で行った研修について御報告いたしました。約1か月と長期間の研修でしたが,日本と全く違うヨーロッパの文化に触れることができただけでなく,治療や手術をはじめその国の医療に対する考え方,社会保障の在り方なども体験することができ,大変貴重な経験を積むことができました.日本の医療や,これまで自分が行ってきた診療について改めて考えるきっかけにもなりました.
また,今回同行し戸惑う私を引っ張ってくださいました蛯名先生,交換留学を薦めてくださいました九州医療センター宮原副院長,推薦してくださいました九州大学整形外科中島准教授,日本リウマチ財団各位,今回のプログラムを企画してくださったThomas Pauly先生,研修を受け入れてくださり温かく迎えてくれましたホスト及びスタッフの先生方に深謝いたします.