関節リウマチの合併症(治療による合併症を含む)
肝障害
肝障害は関節リウマチの治療中に血液検査の異常としてしばしば経験しますが、無症状の場合がほとんどであり、重症の肝障害は稀です。肝障害の原因として最も多いのは使用薬剤による薬剤性肝障害です。次に多く経験されるのがグルココルチコイド(副腎皮質ステロイド)の長期投与や肥満や脂質異常症に伴う脂肪肝です。その他、肝炎ウイルスやEBウイルスなどによる感染症、肝臓がんなど悪性腫瘍(胃がんや大腸がんの肝臓転移なども含む)と、関節リウマチに稀に合併する自己免疫性肝炎や原発性胆汁性胆管炎による肝障害があります。
薬剤性肝障害
関節リウマチの治療中で肝機能に異常が見られた場合、まず使用薬による薬剤性肝障害を疑います。特にメトトレキサートはその頻度が高く、他に原因がないと判断したら、関節リウマチの状況を見て、メトトレキサートの減量または中止を検討すべきです。中止後関節リウマチが悪化した場合、肝機能が正常化していれば、メトトレキサートを少量がら慎重に再開しても良いと思います。しかし、肝障害が残存していれば他の抗リウマチ薬で管理することを検討します。
メトトレキサート以外では、イグラチモド(商品名ケアラム)の使用中でもしばしば肝障害がみられます。その場合もイグラチモドを中止し、慎重に経過観察します。関節リウマチの再燃があれば、できれば他の抗リウマチ薬での管理を優先して検討しますが、イグラチモドの再開も慎重に行えば可能な場合もあります。
生物学的製剤でも、特にIL6受容体抗体製剤(アクテムラ、ケブザラ)で時に肝障害が見られますが、重篤になることはほぼありません。重症の場合は中止すべきですが、通常はそのまま治療を継続できます。JAK阻害薬でも肝障害は起こりますが、用法用量を遵守して適切に使用していれば重篤になることはほぼありません。むしろ併用されているメトトレキサートなどが原因となっていることが多いと思われます。また後述の脂肪肝やウイルス肝炎などが原因である可能性もあり、中止するかどうか慎重に判断する必要があります。
脂肪肝
最近では少なくなりましたが、長期間グルココルチコイド投与が行われてきた患者さんでは、脂肪肝が少なからず存在します。脂肪肝では血液検査でASTよりもALTの値が高い傾向になりますので、ある程度血液検査で脂肪肝を診断できますが、薬剤性か脂肪肝か鑑別は困難ですので、できれば腹部超音波検査やCT検査などで脂肪肝を示唆する所見があるかどうかを確認するのが良いと思います。できればグルココルチコイドの中止を目指して減量を進めるべきです。
ウイルス性肝炎など感染症
関節リウマチの治療では、メトトレキサートや生物学的製剤、JAK阻害薬が使用されますが、これらの使用後に潜在的に存在(感染)していた肝炎ウイルス(B型とC型)が活性化して肝炎を引き起こすことがあり、時に重症になる場合もあることが知られています。したがって、これらの薬剤を使用する前には肝炎ウイルス(B型とC型)のスクリニーング検査を実施することが推奨されており、検査が行われていますので、B型肝炎やC型肝炎が治療中問題になることはほぼなくなりましたが、経過中に新規に感染する可能性もありますので、肝障害が見られたらこれらウイルス肝炎の可能性も考え、検査で確認する必要があります。
肝臓がんなど悪性腫瘍
血液検査での肝機能異常のみで、食欲不振/体重減少/発熱など全身症状や腹痛など消化器症状がなければ、特に悪性腫瘍を疑うことはありませんが、これらの症状を伴う場合や、無症状でも薬剤性などの可能性が考えにくい場合は、念のため悪性腫瘍の可能性を考えて、腫瘍マーカーのチェックや腹部の超音波検査やCTを行って鑑別をする必要はあります。
他の自己免疫疾患合併による肝障害(自己免疫性肝炎/原発性胆汁性胆管炎)
関節リウマチでは種々の自己免疫疾患を合併することもあり、特にシェーグレン症候群はしばしば合併します。このような患者さんでは、さらに自己免疫性肝炎/原発性胆汁性胆管炎を合併することがあります。抗ミトコンドリア抗体や抗LKM-1抗体を調べて陽性なら合併ありと考えます。その場合、無症候なら経過観察のみでも良いと思いますが、しばしばウルソなどを併用して経過観察します。
【情報掲載】令和6年8月