関節リウマチの合併症(治療による合併症を含む)
心血管イベント
関節リウマチ患者でも、心血管イベント(狭心症や心筋梗塞など虚血性心疾患、脳梗塞や脳出血など脳血管障害)が合併し、重症例では後遺症が残り、場合によって死亡にもつながります。欧米では、心血管イベントは、関節リウマチ患者の死因として、最も多い原因とされています。心血管イベントは血管の病変によって起こりますが、その原因には以下のようにいろいろあります。
1.関節リウマチの炎症に伴う血管病変
関節リウマチでは、関節滑膜の炎症だけでなく、血管にも炎症が波及し、血管炎によって血管の狭窄や血栓症をきたし、心血管イベントの原因となります。したがって、関節リウマチの炎症をしっかり抑えることは、心血管イベントの予防につながりますので、しっかり抗リウマチ薬による治療を受けて血管の炎症が起こらないようにしましょう。
2.生活習慣による動脈硬化などの血管病変
心血管イベントの最も大きな原因は、喫煙、糖尿病、高血圧、脂質異常(コレステロールの上昇)など生活習慣です。この生活習慣からくる動脈硬化症も血管の弱い炎症があることが指摘されています。禁煙、血圧や血糖、コレステロールの管理は心血管イベントの予防の基本ですので、しっかり管理をしましょう。
3.治療薬剤による血管病変
関節リウマチではいろいろな薬物療法が行われます。その中で、グルココルチコイド(副腎皮質ステロイド)は、関節リウマチの炎症を速やかに抑制し、関節痛も改善し、極めて有効な薬剤ですが、長期投与では高血圧、糖尿病、脂質異常をきたし、結果的に心血管イベントのリスクになります。関節リウマチの活動性が高い病初期に使用して炎症を早く取り除くことは有益ですが、長期使用は避けるべきです。2024年の日本リウマチ学会の関節リウマチ診療ガイドラインでも、「副腎皮質ステロイドは必要最小量を可能な限り短期間(数ヶ月以内)で漸減・中止する」と記載されています。
TNF阻害薬、アバタセプトなどの生物学的製剤は、炎症をしっかり抑制する一方で、高血圧や糖尿病、脂質異常のリスクは無く、結果的に心血管イベントのリスクを大きく減らすことが証明されています。IL-6受容体抗体では、脂質異常が見られることから当初心血管イベントのリスクになることが懸念されましたが、HDLコレステロールも上昇し、むしろ炎症を強く抑制する効果が上回り、心血管イベントのリスクにはならないことが分かりました。
JAK阻害薬では、50歳以上の高齢者を対象とした試験で、TNF阻害薬と比較して心血管イベントが多いことが指摘されましたが、多くの臨床試験では心血管イベントの増加は見られていません。さらに、日本におけるバリシチニブの市販後調査では、用量の少ない(2 mg/日)群と常用量(4mg/日)を使用した群が比較され、用量の少ない群でむしろ心血管イベントが多く、それはJAK阻害薬の影響ではなく、患者背景(高齢、糖尿病などの合併症が多い、など)の影響が大きいことが分かりました。以上から、JAK阻害薬で炎症をきっちり抑制することにより、むしろ心血管イベントのリスクを減らすことにつながると思われます。
以上から、関節リウマチのマネジメントにおいて、心血管イベントのリスクを減らすためには、なるべくグルココルチコイド以外の抗リウマチ薬で治療することが望まれますが、特に活動性の高い場合には、その初期にグルココルチコイドを使用して炎症を抑制し、その後はできるだけ速やかに減量・中止することが大切です。長期的にはグルココルチコイド以外の抗炎症薬(生物学的製剤など)で治療するのが望ましいとされています。
【情報掲載:令和6年8月】