関節リウマチの合併症(治療による合併症を含む)
骨粗鬆症
関節リウマチにおける骨粗鬆症治療の原則とその治療薬
関節リウマチに伴う骨粗鬆症の予防や治療に大切な点は、第一にリウマチ自体の疾患活動性を良い状態に保っておくことです。第二に大切なことは骨粗鬆症の原因となるグルココルチコイド(副腎皮質ステロイド)の減量・中止を医師とともに進めながら,バランスの良い食事、適度な運動を含めた生活習慣を改善していくことです。
骨粗鬆症の薬物治療はこれらをベースとした上で開始しますが、いつの時点からお薬を飲めばいいのでしょうか?
具体的な例を示します。例えばグルココルチコイドを飲んでおらず、またこれまで骨折を起こしたことがなくても、骨密度を測定して「%YAM値(若年成人の平均と比較して自分の骨密度が何%なのかという数字)」が70%以下であれば薬物治療を開始するのがよいでしょう。また、グルココルチコイドに関してはプレドニゾロン5 mg/日未満の服用であっても、①既存骨折の存在,②年齢が65歳以上、③%YAMが70%未満のうちのひとつでも当てはまれば薬物治療を開始することが推奨されています。
ここからはわが国で使用できる主な骨粗鬆症治療薬について具体的に解説します。
骨粗鬆症治療薬は大きく2つのグループに分けることができます。ひとつは骨吸収を抑制して骨の代謝回転を抑制する骨吸収阻害薬(骨代謝回転抑制薬とも言います)、もうひとつは骨形成を促進する骨形成促進薬(骨代謝回転促進薬とも言います)です。
(図)
ビスホスホネート
経口薬としてはフォサマック®(アレンドロン酸)、ボナロン®(アレンドロン)、アクトネル®(リセドロン酸)、ベネット®(リセドロン酸)、ボノテオ®(ミノドロン酸)、リカルボン®(ミノドロン酸)、ボンビバ®(イバンドロン酸)といったお薬です。また、注射薬としては、月に一度の点滴薬(ボナロン®)、月に一度の静脈注射薬(ボンビバ®)、1年に一度の点滴薬(リクラスト®:ゾレドロン酸)があります。破骨細胞の機能を抑制することで、骨吸収を低下させ骨密度を上昇させます。通常の骨粗鬆症のみならず、関節リウマチに伴う骨粗鬆症にもその有効性が確認されています。
服用早期の副作用には逆流性食道炎と発熱を伴う全身の関節痛があります。後者は初回服用(投与)後に、筋肉痛や関節痛、発熱や全身倦怠感といったインフルエンザ様症状をきたすものです。数日から長くても1週間程度で治まりますが、かなりのつらさを感じる患者さんもいらっしゃいます。ビスホスホネート製剤の急性期反応(APR:acute phase reaction)と呼ばれます。また、長期使用時には顎骨壊死や非定型骨折に注意する必要があります。
デノスマブ
プラリア®というお薬です。破骨細胞の分化をつかさどるRANKLという分子に対する抗体製剤で、骨吸収を抑制することで骨密度を上昇させます。デノスマブも関節リウマチに伴う骨粗鬆症に対する効果が確認されています。もともと骨粗鬆症に対してその使用が可能となっていたのですが、2017年7月に「関節リウマチに伴う骨びらんの進行抑制」に対しても使用できるようになりました。通常、6ヵ月に1回皮下注射投与しますが、それでもなお骨びらんの進行が認められる場合には、3ヵ月に1回の投与も可能です。
ビスホスホネート製剤と同様に顎骨壊死の発生に注意が必要です。また注意事項として血液のカルシウム値が低下することがあり、デノタスチュアブル®というカルシウム、天然型ビタミンD3、マグネシウムを含んだ錠剤を服用します。
テリパラチドとアバロパラチド
テリパラチドはPTH製剤(副甲状腺ホルモン製剤)で、骨形成を促進することで骨密度を上昇させる皮下注射製剤です。遺伝子組み換えテリパラチド(フォルテオ®)とテリパラチド酢酸塩(テリボン®)の2つがあります。フォルテオ®は連日皮下注射製剤(自己注射可能),テリボン®は週1回(56.5 µg)もしくは週2回(28.2 µg)(註:28.2 µg製剤のみ自己注射可能)の皮下注射製剤で、ともに使用期間は24ヶ月を超えることはできません。テリパラチドには海綿骨に対する強力な骨形成促進作用があることが知られています。テリパラチドの24ヶ月の投与期間の終了後には、ビスホスホネート製剤またはデノスマブ、ロモソズマブなどを投与し、増加した骨密度と骨折リスク抑制効果の喪失を予防する必要があります。
また、第3のPTH製剤ともいうべきPTHrp製剤(副甲状腺ホルモン関連ペプチド製剤)アバロパラチド(オスタバロ®)が、2022年11月に登場しました。骨形成を促進する点と、自己注射可能な連日皮下注射製剤である点はフォルテオ®と変わりませんが、使用期間は18カ月を超えることができない点が異なります。
活性型ビタミンD3製剤
エディロール®、アルファロール®、ワンアルファ®といったお薬があります。日本人のリウマチ患者さんではもともとビタミンDが足りていないという背景があるので、これらの薬剤を服用することで骨粗鬆症に対する効果が期待されます。
選択的エストロゲン受容体作動薬(Selective Estrogen Receptor Modulater:SERM)
エビスタ®(ラロキシフェン)、ビビアント®(バゼドキシフェン)といった経口薬があります。女性では閉経後骨粗鬆症といって、エストロゲン(女性ホルモン)が低下し閉経を迎えると骨密度が低下することが知られています。これらの薬剤はそれを補うという機序で、骨粗鬆症に対して効果を発揮します。骨吸収阻害薬のひとつです。
ただし、静脈血栓症(ふくらはぎなどの静脈に血栓が生じる疾患で、これがもとでいわゆるエコノミークラス症候群が発症するすることがあります)のリスクが高まるので、寝たきり・座りきりの高齢の方への投薬は避けた方がよいかもしれません。
ロモソズマブ
イベニティ®という2019年1月に承認された新しいお薬です。スクレロスチンという分子に対する抗体製剤で、骨形成を促進し、かつ骨吸収を抑制するという特徴的な作用機序を有するお薬です。月に一度の皮下注射製剤で、投与期間は12か月を超えることはできません。閉経後骨粗鬆症患者さんを対象とした臨床試験では、骨密度を上昇させ、骨折リスクを抑制する効果が報告されていて、関節リウマチに伴う骨粗鬆症に対しても今後大いに期待されています。ただし、副作用として心血管イベントのリスク上昇が報告されており、非リウマチ患者さんに比べて心疾患合併の頻度が高いとされるリウマチ患者さんではこの点に注意すべきです。
【情報掲載】令和6年8月