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生物学的製剤とは
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生物学的製剤は、化学的に合成してつくられた薬剤ではなく、遺伝子組み換え技術を用いて細胞培養など生物学的技法によりつくられた薬剤のことです。つくられる過程は合成薬に比べて複雑で、手間や費用がかかります。生物学的製剤は蛋白質で、われわれのからだにある抗体や受容体、あるいは細胞表面の分子などと同様の構造をもっており(図1)、関節リウマチをはじめとする多くの病気の治療において用いられています。
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図1.生物学的製剤はどのように働くか? |
関節リウマチで使用される生物学的製剤は、大きく分けると、サイトカインと呼ばれる細胞からつくられ炎症を引き起こす蛋白であるTNFやIL-6を標的としてこれらを抑える薬剤(それぞれTNF阻害薬、IL-6阻害薬)、リウマチの免疫異常を引き起こすリンパ球のひとつであるT細胞を抑える薬剤(T細胞共刺激分子調節薬)の3種類に分けられます(図2)。
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図2.生物学的製剤の作用
リウマチの関節には白血球が集まり、TNFやIL-6といった炎症を起こすサイトカインという物質を過剰に出している。また破骨細胞という骨を壊す細胞がTNFやIL-6によって作られて骨を壊し、炎症によって軟骨も壊されてしまう。
TNF阻害薬やIL-6阻害薬はそれぞれ、TNF、IL-6を直接抑える作用がある。またアバタセプト(商品名オレンシア)は白血球のひとつであるT細胞を抑えて、サイトカインが作られないようにする。これらの作用により炎症や関節の破壊が抑えられると考えらている。 |
現在は9つの生物学的製剤が使用されており、TNF阻害薬が6剤(インフリキシマブ、アダリムマブ、ゴリムマブ、セルトリズマブ ペゴル、オゾラリズマブ、エタネルセプト)、IL-6阻害薬が2剤(トシリズマブ、サリルマブ)、T細胞共刺激分子調節薬が1剤(アバタセプト)となっています(表)。さらに、インフリキシマブ、アダリムマブ、エタネルセプトについてはバイオシミラー(後発バイオ医薬品)も使用されています。
表.生物学的製剤の種類 |
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薬剤名
(商品名) |
製剤 |
投与方法 |
投与間隔 |
用量調節 |
BS |
その他 |
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薬剤名
(商品名) |
製剤 |
投与方法 |
投与間隔 |
用量調節 |
バイオ
シミラー |
その他 |
TNF
阻
害
薬 |
インフリキシマブ
(レミケード®) |
抗TNF
α抗体 |
点滴 |
0, 2, 6週、その後、6-8週間隔 |
1回3mg /kgで開始し、4回目以降にから、8週間隔なら10mg /kgまで、6週間隔なら6㎎/kgまで増量可 |
あり |
MTX併用が必須 |
アダリムマブ
(ヒュミラ®) |
皮下注射 |
2週に1回 |
1回40m、効果不十分な場合1回80mgに増量可 |
あり |
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ゴリムマブ
(シンポニー®) |
皮下注射 |
4週に1回 |
MTX併用ありの場合 1回5、効果不十分な場合100mgに増量可
併用なしの場合100mg |
なし |
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セルトリズマブ
ペゴル
(シムジア®) |
皮下注射 |
0,2,4週
その後2週に1回 |
4週まで1回400㎎、
以後1回200㎎
症状安定期は4週に1回400mgでも可 |
なし |
胎児への移行が
少ない |
オゾラリズマブ
(ナノゾラ®) |
皮下注射 |
4週に1回 |
1回30mg |
なし |
ナノボディ |
エタネルセプト
(エンブレル®) |
可溶型TNF
受容体 |
皮下注射 |
週1回もしくは
週2回 |
週1回25~50mg
週2回10~25mg |
あり |
胎児への移行が
少ない |
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薬剤名
(商品名) |
製剤 |
投与方法 |
投与間隔 |
用量調節 |
BS |
その他 |
IL-6
阻
害
薬 |
アクテムラ
(トシリズマブ®) |
抗IL-6受容体抗体 |
点滴もしくは
皮下注射 |
点滴 4週に1回
皮下注射 2週に1回 |
点滴1回8㎎/㎏
皮下注射1回162mg、効果不十分な場合は週1回に短縮可 |
なし |
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サリルマブ
(ケブザラ®) |
皮下注射 |
2週間に1回 |
1回200㎎
150㎎
に減量可 |
なし |
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薬剤名
(商品名) |
製剤 |
投与方法 |
投与間隔 |
用量調節 |
BS |
その他 |
T細胞共刺激分子調節薬 |
アバタセプト
(オレンシア®) |
CTLA4 |
点滴もしくは
皮下注射 |
0, 2 4週、以後4週に1回点滴
点滴1回、同日より週1回皮下注射
もしくは週1回皮下注射 |
点滴体重60㎏未満 1回500㎎
60㎏以上750㎎
皮下注射1回125㎎ |
なし |
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( )内は商品名
BS:バイオシミラー
MTX:メトトレキサート |
生物学的製剤は皮下注射あるいは点滴で投与され、投与間隔は薬剤や投与法などにより様々です。皮下注射の場合は病院に行かずに患者さん自身で行う自己注射が可能となっています。
生物学的製剤は特別な薬ではなく、日本では2003年にレミケードが生物学性製剤として初めて関節リウマチに承認され、以来、長きにわたって生物学的製剤が使用されており、現在では多くのリウマチ患者さんに日常的に使用されています。
