生物学的製剤 |
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生物学的製剤の種類 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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まず、代表的な医薬品として腫瘍壊死因子(TNF)という分子と結合してその作用を抑制する医薬品が6種類あります。キメラ型抗TNFモノクローナル抗体(マウス蛋白を25%含有)であるインフリキシマブ、可溶性TNFレセプターとヒトIgGとの融合蛋白であるエタネルセプト、完全ヒト型抗TNFモノクローナル抗体のアダリムマブ、ゴリムマブ、ペグ化したセルトリズマブペゴル、およびナノボディ製剤であるオゾラリズマブで、それぞれレミケード®、エンブレル®、ヒュミラ®、シンポニー®、シムジア®、ナノゾラ®という商品名で使用されています。この中で、現在バイオシミラーとして、インフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブの3種類のみが発売されています。 |
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各種生物学的製剤の特徴 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
① |
抗ヒトTNFαモノクローナル抗体製剤 |
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このTNFを標的として直接その働きを抑えるTNF阻害薬は、もともとヒトのからだに存在する抗体や受容体などのタンパク質を生物学的な手法を用いて人工的に作った薬物です。TNF阻害薬はすでに関節リウマチ治療に用いられ、関節症状を抑えるだけでなく、骨や軟骨破壊の予防作用があり、高い有効性が認められています。 TNFαを阻害するRAの治療薬としては、日本でも既に2003年7月にインフリキシマブ(商品名:レミケード®)、2005年3月にエタネルセプト(商品名:エンブレル®)が発売され使用されています。アダリムマブ(商品名:ヒュミラ®)は3番目のTNFα阻害薬として2008年4月に承認されました。いずれの薬剤も関節炎を抑える効果は強力で、RA治療の基本的薬剤であるメトトレキサート製剤(以下MTX、商品名:リウマトレックス、メトレートなど)で効果が不十分な患者さんに、これらの抗TNF製剤のいずれかを併用すれば、関節炎の症状が治まるだけでなく、骨の破壊を抑えることによって将来の関節の変形も防止できることが報告されています。 |
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インフリキシマブ は キメラ型モノクローナル抗体で、TNFαと結合する部位のみがマウスの蛋白 からなり、その他はヒト由来の蛋白で、遺伝子工学によって2種の蛋白を合体したものです。全体の25%がマウス蛋白なので、ヒトにとっては本来の体にはない異物と認識されるために、アレルギー反応がおこることがあります。このためアナフィラキシー(急性のアレルギー反応で血圧の低下やショック状態を起こす)と呼ばれる、生命にも関わる可能性がある強いアレルギー反応も 0.5%程度ですが 起こり得 ます。また連用しているとインフリキシマブ に対する抗体(抗キメラ抗体)ができて、効果が減弱 して くることがしばしばあります。このアレルギー反応や抗キメラ抗体の産生を抑えるためにMTXと必ず併用します。したがって、MTXがどうしても服用できない患者さんはインフリキシマブ も使用できません。 |
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エタネルセプト は皮下注射製剤で 週に2回皮下注射します。半減期(体内での薬の濃度が半分になる時間)が4日と短いため、1週間に2回の注射が必要で、多くは患者さん自身がトレーニングを受けて自己注射で使用します。はじめは医師が行うことになっており、週2回の通院が必要です。以後は訓練して自己注射ができるようになれば、通院は2週に1回で済みます。 エタネルセプト は TNF受容体という蛋白とヒトの免疫グロブリンという蛋白の一部を人工的につなぎ合わせたもので、すべてヒト蛋白でできています。インフリキシマブと異なりマウス蛋白がないので抗キメラ抗体はできないため、MTXとの併用は必ずしも必要ではなく、単独でも使用できます。アナフィラキシーはほとんどありません。またMTXとの併用で、アレルギー反応も抑えられ、RAに対する効果も強くなることが知られていますので、効果を期待するならば併用する方が望ましいとされています。 |
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アダリムマブは皮下注射製剤でエタネルセプトに比較して 半減期が長いため、注射の頻度は2週間に1回となっております。本剤も MTXとの併用は必須ではありませんが、 併用した方が高い有効性が示されていることから 、他の製剤と同様にMTXとの併用が推奨されています。 インフリキシマブ との違いは、マウス蛋白を含まないことと、皮下注製剤であることです。このためMTXは併用不要で単独での使用が認められています。しかしマウス蛋白を含まなくても、中和抗体(抗アダリムマブ抗体)が 認められた報告もあり、 効果の減弱やアレルギー反応がみられる可能性があります。 |
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本剤はヒト化TNFモノクローナル抗体のFab’断片(抗体分子のFc部分を切り離したもの)をポリエチレン・グリコール(PEG)という化学物質と結合させた特殊な製剤です。すなわちセルトリズマブペゴルは今までのTNF阻害剤と異なる3つの構造上の特徴があります。①PEG化、②Fc部分がない、③1価(1分子の抗原とのみ結合可能)の3つです。 特に部位が無いことは胎盤を通過することができないため胎児にはほとんど影響がないこと、さらに乳汁移行性も低いと言われており、妊婦や授乳婦にも胎児や新生児への影響がなく投与できる可能性があります。 Fc部位がないことから肥満細胞からの脱顆粒も理論的に起こらないため、投与部位反応の緩和につながると期待されています。 |
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オゾラリズマブは、関節リウマチに対して適応になった6番目のTNF阻害剤ですが、従来のIgG抗体ではなく、ナノボティ製剤です。通常の抗体は重鎖と軽鎖それぞれ2本が結合した形であるのに、ナノボディは重鎖のみで構成されていて通常のIgG抗体の1/10の大きさです。オゾラリズマブは、2種類の抗TNFαナノボディと抗血清アルブミンナノボディを組み合わせた構造になります。通常の抗体製剤の1/4の大きさになり、従来のTNF抗体製剤より小さいために、関節炎部位へ早く到達し、かつ高濃度に集積することが期待されています。また他のTNF抗体が利かなくなった場合(二次無効)でも、オゾラリズマブは有効な例があることが報告されています。 |
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② | ヒト化抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体 |
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トシリズマブには点滴製剤と皮下注製剤があります。点滴製剤は4週間に1回点滴し、皮下注製剤は通常2週間に1回の投与ですが、効果が不十分な場合には1週間まで投与間隔を短縮できます。 血液検査所見上、感染症が起こっても、CRP値の上昇がみられないことから発見が遅れることが危惧されているため注意が必要な薬剤です。 |
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本剤はヒト型抗IL-6 受容体モノクローナル抗体製剤 であり、関節液中や血液中に過剰に存在しているIL-6という物質の代わりに受容体に結合することで、IL-6 の働きを抑え、関節の腫れや痛みを改善し、関節破壊の進行を抑制することが期待されます。 サリルマブの投与方法は、通常、成人には2週間隔で皮下に注射します。通常用量は200mgですが、好中球減少症や肝機能障害等の状態に応じて150mgを選択することがあります。 注意すべき重篤な副作用として、第一に感染症があげられます。 血液検査所見上、感染症が起こっても、CRP値の上昇がみられないことから発見が遅れることが危惧されます。 |
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③ | T細胞選択的共刺激調節剤 |
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アバタセプトはこれまでの抗ヒトTNFαモノクローナル抗体製剤や抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体製剤とは異なる新しい作用機序を有する生物学的製剤です。本剤は抗原提示細胞とT細胞間の共刺激シグナルを阻害し、関節リウマチの発症に関与するT細胞の活性化を抑制することから、「T細胞選択的共刺激調節薬」と呼ばれています。従来の生物学的製剤と比べ、より上流で作用するのが特徴で、その作用機序から従来薬では十分に効果が得られなかった症例や感染症のリスクの高い患者さんに有効とされています。 アバタセプト は 点滴製剤と皮下注製剤があります。点滴製剤は 体重により1回当たり500 mgから1 gを 初回投与後,2週,4週に投与し,以後4週間の間隔で点滴静注します。また、皮下注製剤を使用する際は、通常、成人には投与初日に負荷投与としてアバタセプト点滴静注用製剤の点滴静注を行った後、同日中に本剤125mgの皮下注射を行い、その後、本剤125mgを週1回、皮下注射しますが、本剤125mgの週1回皮下注射から開始することもできます。 |
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これら生物学的製剤にはいくつかの注意すべき副作用がありますが、特に重要なものは感染症とアレルギー反応です。その中でも結核は重要で、ツベルクリン反応陽性など結核感染の既往があると思われる方は抗結核薬を服用しながら この治療を受ける必要があります。 結核以外では、種々の病原体による肺炎が起こる可能性がありますので、 咳や発熱などの症状があればすぐに主治医に連絡する必要があります 。 また、B型肝炎ウイルス(HBV)キャリアの患者さんに対して生物学的製剤を投与する際には、劇症化を防ぐためRA治療開始前に核酸アナログ製剤の投与を行い、薬剤に応じて1~3カ月間に1回程度のHBV-DNAのモニタリングを行う必要があります。 |
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【情報掲載】令和5年1月 更新
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