リウマチを知ろう!

関節リウマチ

関節リウマチの治療 – 手術療法

 近年の薬物療法の進歩により、関節リウマチと診断されてから手術が必要になるまでの期間は、以前と比べ明らかに延びていることが最近の疫学調査からも明らかにされています。しかし一方で関節障害のため手術が必要な患者さんもまだ多くいらっしゃいます。薬の開発は生物学的製剤やJAK阻害薬などその進歩が著しいですが、手術療法も同様に近年目覚しく進歩しています。以前は10年ほどといわれた膝・股関節の人工関節の寿命も、近年では20年以上安定した成績が期待されるようになっています。また手術器械や手術手技の開発・改良により、これまで困難とされた関節の手術も可能となり、また入院期間も著しく短縮されてきました。
 一方で手術のタイミングを逸したために期待される効果が得られない場合や、手遅れになり手術そのものが出来なくなってしまった例もあります。確立された術式であれば、術後評価は満足すべきものであることはエビデンスの上からも明らかにされています。手術によりそれまで困難であった日常生活が著しく改善した例は少なくありません。

いつ手術を考えればよいの?

いつ手術を考えればよいの? 薬物療法などを駆使して快適な日常生活を過ごせるよう最大限の努力を払うべきことは言うまでもありませんが、関節障害のため日常生活に支障をきたした場合には、手遅れにならないうちに遠慮せず手術療法について専門医と相談すべきです。適切な薬物治療を行っているにもかかわらず、軽微な関節炎が持続して経過とともに関節の破壊が進行することもあります。

 関節リウマチの手術は関節変形を予防する目的で、病気の早期からも行うことがあります。そして遅くなればなるほど手術方法の選択肢は減り、手術の結果も完全な回復ではなくなるといえます。

 関節リウマチの手術法は大きく分けて

  1. 滑膜切除術
  2. 人工関節置換術
  3. 関節固定術
  4. 関節形成術

 の4種類があります。関節ごとに主に施行される術式は異なっています。高度に破壊された関節の手術であれば人工関節置換術が行われています。正常な関節には無痛性(痛くないこと)・可動性(動くこと)・支持性(ぐらつかないこと)の3要素が要求されますが、人工関節はわずかな動きの制限を残すことはあるものの、3つの要素全てを獲得出来る術式です。しかしながら稀に合併症が出現することもあるため、専門医と十分相談して行うようにして下さい。

関節リウマチの関節病変に対する手術

1.滑膜切除術

 滑膜切除術は、関節リウマチによる関節滑膜の炎症により、疼痛や関節可動域(関節の動く範囲)の制限があり、日常生活に支障を来す患者さんに行なう手術方法で、炎症の主体である滑膜を切除して、疼痛をとり除くことを主な目的としています。手術は軽度~中等度の関節炎・関節破壊のある関節に対して行われ、高度に破壊された関節には通常は行われません。滑膜切除術は頸椎を除く全ての関節で行うことが可能ですが、主に行われる関節は肘・手関節・指・足関節などです。手術方法には関節内視鏡を使った手術や関節を開けて行う方法がありますが、関節の骨や軟骨はほとんど触らずに、炎症を起こして腫れている滑膜を関節から取り除く術式です。肘・手首の関節では良好な長期成績の報告もあります。一方で術後の薬物治療の良しあしによっては関節炎が再発する場合もあり、将来的に再手術の必要が生じることもあります。

正常な関節

正常な関節

滑膜が絨毛状(“ひだ”のように)に腫れている状態

滑膜が絨毛状(“ひだ”のように)に腫れている状態
滑膜切除術では絨毛状に腫れた滑膜を切除します。
(患者さんのための関節リウマチ治療ガイドライン, 財団法人 日本リウマチ財団編,医歯薬出版 2006より引用)

2.人工関節置換術

 人工関節置換術は関節リウマチによる関節炎や関節の変形・破壊などにより、関節の骨や軟骨がすり減り、痛みや関節の可動域(動く範囲)の制限が出て、日常生活に支障を来す患者さんに行なう手術方法です。強い関節変形を放置すると日常生活の制限・困難が進行する可能性もありますので早めに主治医と相談しましょう。術式として主に人工関節が選択されてきた関節は膝関節と股関節です。しかし最近では肩・肘・指・手・足・足趾などの関節でも良好な術後成績が報告されるようになってきました。
 人工関節置換術の一番の目的は、痛みなく日常生活を送ることです。手術により痛みはほとんどなくなりますが、多少の違和感や軽度の疼痛が残ることがあります。また現在の人工関節は正常な関節の動きを100%は再現できません。そのため手術前より関節の可動域(動く範囲)が減少したり、人工関節特有の合併症が生じる可能性もあります。さらに新しい人工関節が体になじむまで(違和感なく使えるまで)ある程度の時間がかかります。個人差はありますが、この手術を受けられた患者さんが、違和感がなくなってきたと感じるのは通常、術後3か月ぐらいです。また患者さんの体格や生活活動の程度により人工関節の寿命は異なり、また部位ごとにもやや異なります。膝・股関節では約20年(あるいはそれ以上)と報告されていますが、指・肩・肘・足・足趾関節の人工関節寿命は膝・股関節ほど長くないと考えられています。

3.関節固定術

 関節固定術は関節破壊が著しい場合に行います。関節によっては人工関節が作られていない関節もあり、また仮に人工関節を入れることができても、術後の安定性や長期の有用性が見込めない場合などに関節固定術を行います。関節固定術では関節を固定することで可動性を犠牲にしますが、確実な除痛と支持性を得るために行われます。関節を機能しやすい角度で固定するので、安定性という意味ではとても改善しますが、一方で関節が動かないことで、日常生活動作の制限も生じるため、近年では行われる頻度が少なくなりつつあります。主に行われるのは頸椎・手関節・足関節(下図)・手指(特に母指)や足の母趾などです。

4.関節形成術

 上記の人工関節手術は一般に術後成績は良いですが、人工関節には寿命があることが1つの問題です。一方で近年の薬物治療の進化により、術後の関節炎のコントロールが良好になったことで、可能であれば自分の関節を残すことはできないか?というニーズが出てきました。そこで近年では関節構造を可能な限り残しつつ、関節の機能の改善をはかる関節形成術が増加してきました。手術部位によっては関節形成術が手術治療の中心となっています。この手術は初期から中期のまだ関節の形状が残っている状態で、関節の一部を削ったり形を整えたりして機能や整容を回復させる術式です。主に肘・足趾・手首・肘・指の各関節で行われます。
 上記の各手術方法は部位別に推奨度(どのくらい勧められる手術か?)が報告されています。

(関節リウマチの診療マニュアル(改訂版), 診断のマニュアルとEBMに基づく治療ガイドライン, 財団法人 日本リウマチ財団発行, 2004より引用

関節の部位ごとの代表的な手術

1.膝関節

膝関節 関節リウマチの膝関節手術では人工関節置換術が行われることがとても多いですが、患者さんによっては滑膜切除術の選択となることもあります。上記の、関節リウマチの診療マニュアル(改訂版), 診断のマニュアルとEBMに基づく治療ガイドライン(日本リウマチ財団発行)では、膝関節は人工関節置換術、滑膜切除術ともに推奨A(行うよう強く勧められる)となっています。
 人工膝関節置換術では大腿骨(太ももの骨)、脛骨(膝下の骨)、膝蓋骨(膝のおさらの骨)の各々の破壊された関節の骨を切除した後、人工膝関節を挿入します(下図)。通常は金属製の関節を大腿骨と脛骨に固定して、その間に医療用のポリエチレン(プラスチックの様なもの)をはめ込みます。人工関節の固定は特殊な表面形状により固定するものや、骨セメントを使用して行なうものがあります。また関節破壊の程度の強い方や金属アレルギーのある方などは上記以外の人工関節を使う場合があります。人工膝関節には様々な種類がありますが、関節リウマチの患者さんでの人工関節の寿命には大きな差はなく、一般的な耐用年数は約20年と考えられています。

右膝関節を前から見たイメージ(灰色の部分が人工関節)

右膝関節を前から見たイメージ(灰色の部分が人工関節)
(関節リウマチの診療マニュアル(改訂版), 診断のマニュアルとEBMに基づく治療ガイドライン, 財団法人 日本リウマチ財団発行, 2004より引用)

2.股関節

 関節リウマチの股関節手術ではほとんどの例で人工股関節置換術が行われます。変形性股関節症の患者さんで行われるような関節形成術、骨切り術、関節固定術などは、関節リウマチの患者さんにはあまり行われません。薬物治療がよくなった近年では、ごくまれに滑膜切除術が選択となることもあります。股関節は人工関節置換術のみが推奨Aです。
 人工股関節置換術では大腿骨を下肢の付け根近くで切り、変形した大腿骨を取り除いた後、人工股関節を挿入します(下図)。骨盤側は通常ドーム状の金属のカップ(受け手)をねじや骨のセメントで骨盤に固定して、その金属のカップの中に医療用のポリエチレン(プラスチックの臼の様なもの)あるいはセラミック製の受け手をはめ込みます。大腿骨側はくさび状の大腿骨側の人工関節を骨に挿入します。固定は膝関節と同様に特殊な表面形状を利用して固定するものや、骨のセメントを使用して行なうものがあります。その先に人工の骨頭(小さなボールのようなもの)をつけ、骨盤側の受け手と組み合わせます。関節破壊の程度によっては上記の人工関節以外の人工関節を使う場合や骨が足りない部分に自分の骨や人工骨を移植する場合があります。人工股関節にも多くの種類がありますが、関節リウマチの患者さんでの人工関節の寿命には大きな差はなく、一般的な耐用年数は20年と考えられています。人工股関節置換術後の特有な合併症として、関節の脱臼が挙げられます。脱臼を予防するため、術後の生活の中での脚の位置や角度に注意が必要です。

人工股関節全置換術

人工股関節全置換術
(関節リウマチの診療マニュアル(改訂版), 診断のマニュアルとEBMに基づく治療ガイドライン, 財団法人 日本リウマチ財団発行, 2004より引用)

3.手関節・手指関節

 手関節(手首)では関節リウマチによる滑膜炎で変形や痛みを生じることがあります。痛みを減らし、手関節の機能を改善する目的で手術を行います。手術方法はさまざまな方法がありますが、一般的に手関節では滑膜切除を行った後に、部分的に関節の骨を固定することが多いです。部分的に固定することで関節が安定し、痛みの改善が期待できます。変形の程度によっては骨切除のみの場合もあります。手関節は滑膜切除術が推奨Aで、関節固定術と関節形成術は推奨B(行うよう勧められる)です。
 手指関節では指の小関節に滑膜炎が起こり、様々な変形を生じて日常生活動作の障害になっている場合や痛みの原因となっている場合に主に滑膜切除術、人工関節置換術や関節形成術を行います。また手指関節とともに手関節の変形や滑膜炎により指を曲げたり伸ばしたりする腱の断裂を伴うことがあります。痛みを減らし、切れた腱を再建する(元通りにすることではありません)目的でも手術治療を行います。手術方法は多くの方法がありますが、腱が断裂している場合には、腱を隣の指の腱によせて縫合したり、新たに腱を移植する処置を追加します。手指関節では滑膜切除術が推奨Aで、他の手術は推奨Bです。人工関節置換術や関節形成術を行なっても、術後に変形の十分な改善がない場合や、また腱の再建術を行っても、もう一度断裂する(再断裂)可能性はあります。

2~5指(人差し指から小指)に対する人工関節置換術

2~5指(人差し指から小指)に対する人工関節置換術
(関節リウマチの診療マニュアル(改訂版), 診断のマニュアルとEBMに基づく治療ガイドライン, 財団法人 日本リウマチ財団発行, 2004より引用)

4.足関節・足趾関節

 足関節(足首)では関節の状態によって、滑膜切除術、人工関節置換術、関節固定術など様々な手術が行われます。滑膜切除術や人工関節置換術では足関節の動き(可動域)はある程度残りますが、関節固定術では完全に動かなくなります。ただし、関節固定術を受けても他の(足の甲にある関節など)足部の関節は残るので、足部が全く動かなくなるわけではありません。足関節固定術により安定性が確保されるので、歩行は痛みなく安定して可能になります。足関節は関節固定術が推奨Aで、滑膜切除術と人工関節置換術は推奨Bです。
 足趾の手術では以前は関節切除術がよく行われていましたが、近年は関節形成術が多く行われています。足趾の関節形成術では、足趾の破壊された関節の骨を一部切除したり、向きを変えたりします。足趾の変形の度合いや各々の患者さんの状況により手術方法を選択します。人工足趾関節を使用する場合はシリコン製の人工関節を挿入します。足趾関節では関節形成術のみが推奨Aです。足趾の手術は施設により行なう手術法が異なる場合があります。

足関節固定術

足関節固定術

母趾は関節固定術、2-5趾は関節切除術

母趾は関節固定術、2-5趾は関節切除術
(関節リウマチの診療マニュアル(改訂版), 診断のマニュアルとEBMに基づく治療ガイドライン, 財団法人 日本リウマチ財団発行, 2004より引用)

5.肩関節・肘関節

 肩関節では人工関節置換術が推奨A、滑膜切除術は推奨Bとなっていますが、近年では大きな創を開かず、関節鏡を使用して行う滑膜切除術が患者さんへの負担も少なく、良好な術後成績も報告されています。また人工肩関節置換術では新しい機種の導入も進められています。
 肘関節は手関節や手指関節と同様に、疼痛や可動域制限により日常生活動作が顕著に障害される部位です。肘関節では滑膜切除術、人工関節置換術ともに推奨Aです。

人工肩関節置換術

人工肩関節置換術

人工肘関節置換術

人工肘関節置換術
(関節リウマチの診療マニュアル(改訂版), 診断のマニュアルとEBMに基づく治療ガイドライン, 財団法人 日本リウマチ財団発行, 2004より引用)

【情報更新】令和4年9月